フランチャイズ(以下 FC)契約には、独立開業支援とブランド統制の二律背反を調整するための多数の条項が必要です。本稿では、行政書士がドラフトを作成・レビューする際に不可欠となる12の主要条項と、契約締結前に交付が義務づけられる法定開示書面(中小小売商業振興法11条・同施行規則)のポイントを整理します。
1 目的条項と定義
最初に「本契約の目的」を明示し、商標・ノウハウ使用許諾+指導対価として加盟者が対価を支払う双務契約であることを確定させます。ブランド体系が複数ある場合は商標を列挙し、加盟者が運営する「事業形態」「店舗種別」を定義しておくと、のちのリブランディング時に混乱しません。
2 フランチャイズ権(ライセンス)の範囲
- 使用許諾される知的財産(商標・ロゴ・レシピ・システム)
- ノウハウの開示形態(マニュアル貸与、eラーニング等)
- 契約期間中・終了後の競業避止を立体的に規定します。
3 排他地域・店舗数コントロール条項
許諾地域(テリトリー)を設定する場合は、
- 面積・行政区画など客観的指標
- 排他効力の有無と例外(需要超過時の追加出店権)
- 契約終了後の独占権消滅
をセットで置くのが鉄則です。無制限排他は独占禁止法上「地域的市場閉鎖」になり得るため、最大店舗数や売上基準を条件にするなど、JFTC「フランチャイズ・システムに関する独禁法上の考え方」(2021 年改訂)のガイドラインに適合させます。
4 加盟金・保証金
加盟金は原則「ノウハウ開示・商標使用・開業支援の一時対価」として返還不可である旨を明示します。保証金を預り金とする場合は、保全方法・償却条件・返還時期を規定し、消費者契約法上の不当条項(全部没収など)を避けます。
5 ロイヤルティと報告義務
定額+売上歩合のハイブリッド型が主流です。歩合ロイヤルティは、
- 売上の定義(税抜/値引後/EC売上含むか)
- POS連携や会計報告フォーマット
- 調査・監査権限(立入検査・帳簿閲覧)
を具体化します。
6 本部の義務(サポート範囲)
法的には「加盟者の経営成功を保証しない」ことを明示しつつ、
- 研修・マニュアル更新
- 商品供給・物流手配
- 広告宣伝支援
- クレーム対応指導
を列挙すると説明義務違反を回避できます。
7 店舗運営義務(加盟者側)
- 本部指定食材・備品の購入義務
- 衛生・許認可維持
- 営業時間・価格統制の範囲
を明記しつつ、価格拘束が独禁法の再販売価格維持に抵触しないよう、推奨価格と義務価格を峻別します。
8 マニュアル・ノウハウの取扱い(秘密保持)
マニュアルは「営業秘密」(不正競争防止法2条6項)に該当する旨を明示し、複製・第三者提供禁止、契約終了時の返還・消去を義務づけます。※
9 競業避止・持株制限
競業避止の射程は「契約期間中+終了後1〜3年」「商材または商標が同一・類似」「店舗半径○km以内」など合理的範囲に限定し、独禁法19条・公序良俗違反を回避します。
10 損害賠償・違約金
遅延損害金や営業秘密漏えいに対する損害賠償は、「通常かつ直接の損害に限り…」と総額に上限を設けるか、項目別の違約金(○万円/件)を定める方法があります。過大な違約金は消費者契約法9条で無効となる場合があるため注意が必要です。
11 契約期間・更新・解除
- 初期契約2〜5年+自動更新
- 更新料の有無
- 正当事由なき中途解約可否(加盟者に一方的な禁止を設けるとトラブル)
- 解除事由(ロイヤルティ滞納・反社該当・重大クレーム等)
を明文化します。中途解約を一切認めない条項は、裁判例で無効・減額改定が命じられる傾向にあるため、損切基準を設定するのが実務的です。
12 終了後の処理
商標の掲示物撤去、在庫買取などを定め、終了後1年間の競業避止や秘密保持義務を明示します。
法定開示書面とは何か
中小小売商業振興法11条は、フランチャイズ本部(フランチャイザー)に対し、契約締結日の14日前までに「フランチャイズ・システムの概要、売上予測の算定根拠、本部の財務情報」等を記載した法定開示書面(Disclosure Document)を交付することを義務づけています。中小小売商業振興法11条は、「小売業」および「飲食業」に該当するフランチャイズ本部(フランチャイザー)に対し、加盟契約を結ぶ14日前までに「法定開示書面」を交付する義務を課しています。ここでいう小売業には、コンビニエンスストア、ドラッグストア、衣料品・雑貨店、家電量販店、生花・書籍・食品専門店など、不特定多数の消費者に物品を販売する業態が広く含まれます。飲食業には、ファストフード、カフェ、居酒屋、ベーカリー、テイクアウト専門店など、施設で飲食物を提供・販売する業態が対象です。
一方、学習塾・理美容・清掃・フィットネスなど 物品の販売を主目的としないサービス業 は同法の強制対象外ですが、近年は公正取引委員会ガイドラインや消費者保護の観点から、これら業種でも任意で同水準の開示書面を用意する本部が増えています。
法定開示書面に盛り込む主要項目(施行規則3条)
- 直近3期の財務諸表(損益計算書・貸借対照表)
- 直営店・加盟店の店舗数、過去3年の新規開店・解約・契約解除件数
- 初期投資額の内訳(加盟金・保証金・内装費・機器費・研修費等)
- ロイヤルティ、広告分担金、システム利用料など継続的負担の額と算定方法
- 収益モデルの算定根拠(売上・原価・販管費の前提)
- 研修・指導体制、マニュアルの有無と改訂方法
- 行政処分・訴訟・係争の有無と概要
開示書面は加盟者がリスクと収益性を比較検討するための「事前情報」であり、交付義務を怠ると主務大臣(経済産業大臣・農林水産大臣)の業務改善命令・罰則の対象となります。また、未交付や虚偽記載は民事上の情報提供義務違反として損害賠償責任を問われるリスクも高い点に注意が必要です。契約書と記載内容が矛盾しないよう、書面の同時改訂・一元管理体制を整えることがコンプライアンスの要となります。
まとめ
フランチャイズ契約は、独禁法・中小小売商業振興法・消費者契約法など複数法令の交差点に位置する高難度契約です。
- 本部・加盟者双方の義務を対価の範囲でバランスさせること
- JFTC ガイドラインや消費者契約法に適合した競業避止・解除条項を設計すること
- 法定開示書面を14日前までに交付し、契約書と齟齬がないよう維持管理すること
を徹底すれば、加盟募集段階から運営・終了後まで一貫してトラブルを抑制できます。行政書士は、条文ドラフトだけでなく開示書面作成・改訂フローの構築、加盟募集広告のリーガルチェックまで総合支援を行いますので、ぜひご相談ください。