営業リソースの外部活用が一般化し、SaaS や EC などのスタートアップだけでなく、中堅企業でも「営業代行サービス」を導入するケースが急増しています。ところが委託契約(業務委託)のひな形を流用し、成果報酬や個人情報の取扱い、下請法の適用可否を十分に検討しないまま運用すると、未払いトラブル・個人情報漏えい・偽装請負※1 といった法的リスクが顕在化します。本稿では契約書作成を専門とする行政書士の立場から、営業代行契約で最低限盛り込むべき条項を11項目に整理し、条文設計の着眼点を解説します。
(※1:発注者の指揮命令下で恒常的に業務を行わせると、労働者派遣法違反や雇用関係の認定リスクが生じます)


1 業務範囲(スコープ)と独立性の明示

委託者の指揮命令が過度に及ぶと「偽装請負」と評価される恐れがあるため、契約冒頭で

  • 対象商材・エリア・使用チャネル(電話・メール・訪問など)
  • 見込み顧客リストの作成主体と使用許諾範囲
  • 契約締結権の有無(基本は紹介まで/特定代理権を付与する場合は委任契約を併設)
    を明確化し、営業手法や勤務時間は代行業者の裁量に委ねる 旨を条文化します。

2 報酬体系と成果定義

固定報酬・成果報酬・ハイブリッド型のいずれでも、成果発生の判定基準が曖昧だと紛争化します。
例)「成果」とは「委託者が発行する請求書に記載された金額が入金された時点」と定義し、不払いやクレジット決済のチャージバック時は報酬を控除する旨を規定。

3 報酬請求・支払手続

支払サイト(例:月末締め翌月末払い)と計算書のフォーマットを取り決め、報酬額に係る消費税や源泉徴収※2 の有無を明示します。
(※2:個人事業主に対して講演料等を支払う場合は源泉徴収義務が生じ得ます。)

4 競業避止・排他条項

同業他社の代行を同期間に請け負うと、情報漏えいリスクや利益相反が発生します。

  • 完全排他型:エリア・商材を限定し、期間中および終了後6か月間は競合商材を扱わない。
  • 相対排他型:自社で指定する競合リストについてのみ排除。
    排他条件を限定しすぎると独占禁止法の優越的地位濫用にも該当し得るため、必要最小限に留めます。

5 個人情報・営業秘密の取扱い

見込み顧客リストには氏名・連絡先が含まれるため、個人情報保護法(第 20 条安全管理措置) に適合した取扱いを契約書で担保します。

  • 目的外利用・第三者提供の禁止
  • 漏えい時の速やかな報告義務
  • 契約終了時のデータ返却・消去

6 コンプライアンス条項(特商法・景表法・迷惑メール規制)

電話・メール・訪問勧誘を行う場合、特定商取引法や特定電子メール法を遵守する義務を負わせ、「違反により行政処分を受けたときは契約を即時解除し、代行業者が一切の損害を賠償する」と規定します。

7 成果物の帰属と二次利用

トークスクリプト、顧客データベース、レポートなどの成果物を誰が権利者となるかを明確化し、代行業者が別案件で流用する場合のライセンス条件を定めます。

8 反社会的勢力排除

企業のリスク管理として必須の条項です。暴力団排除条例に準拠し、該当が判明した時点で無催告解除・損害賠償請求が可能であることを盛り込みます。

9 損害賠償と限度額

説明義務違反や名誉棄損で第三者からクレームがあった場合に備え、「通常かつ直接の損害に限り、直近6か月の総支払報酬額を上限とする」 など、責任範囲と上限額を設定します。ただし個人情報漏えいなど重大事故については無制限責任とする二層構造も検討します。

10 契約期間と解除条項

最低継続期間が必要な場合でも、成果が出ない・法令違反が生じたときの中途解除権を定めます。民法第 651 条(委任の解除)により当事者は原則自由に解除できますが、商慣習上の違約金や未払い費用の清算方法を契約で上書きしておくと実務が円滑です。

11 合意管轄・準拠法

遠隔地同士の C to B 取引では訴訟コストが争点になります。「本契約に関する訴訟は東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄とする」など専属管轄型を採用し、常に日本法を準拠法と明示します。


まとめ

営業代行契約は、一般的な業務委託契約に「成果報酬」「個人情報取り扱い」「コンプライアンス担保」という三つの特殊要素が重なります。契約書を作り込まなければ、

  • 成果定義が曖昧で報酬をめぐる紛争が発生
  • 個人情報漏えいで多額の損害賠償責任
  • 偽装請負により労基署・派遣法違反の指摘
    といった高リスク案件になりかねません。

行政書士は、商材や業態をヒアリングしながら 「指揮命令境界の明確化/成果と報酬の整合/情報保護と法令順守体制」 を柱にカスタマイズ条文を設計します。外部営業リソースを安全に活用するため、ぜひ早い段階で専門家にご相談ください。