再エネ事業者が注意すべき盛土規制法ガイドライン
2023年5月、熱海市の大規模土石流災害を受けて制定された「宅地造成及び特定盛土等規制法」(いわゆる「盛土規制法」)が全面施行されました。この法改正は、宅地造成だけでなく、太陽光発電所の設置などを目的とした大規模な土地造成にも規制の対象を拡大した点が大きな特徴です。
特に、山間部や傾斜地を活用して太陽光発電設備を設置しようとする再生可能エネルギー事業者にとっては、従来必要とされなかった許可や届出が新たに求められる場面が増えています。本記事では、太陽光発電事業者が押さえておくべき盛土規制法のポイントと、事業実施にあたっての注意点をわかりやすく解説します。
盛土規制法の概要
盛土規制法は、従来の宅地造成等規制法を抜本的に改正し、「災害から命と暮らしを守る」ための土地造成規制を全国的に強化するものです。これまで宅地造成に限られていた規制対象を、残土処分や太陽光発電設備の設置など非宅地目的の造成にも拡大し、一定規模以上の盛土や切土について都道府県知事の許可または届出を義務付ける仕組みとなりました。
この法改正により、山間部や斜面などでの開発行為についても、安全性や周辺への影響を事前に確認しなければならなくなりました。
対象となる太陽光発電設備の設置工事とは?
太陽光発電設備の設置にあたっては、基礎の設置やパネルの設置に伴う造成行為が必要になることが多く、その中で「切土」や「盛土」等の土工事が含まれる場合、盛土規制法の適用を受ける可能性が高くなります。
規制の対象となる行為は主に以下のとおりです:
- 盛土により1メートルを超える高さの法面(のり面)を形成するもの
- 切土により2メートルを超える法面を形成するもの
- 500平方メートルを超える面積の土地に対して盛土・切土を行うもの
上記いずれかに該当する場合は、「宅地造成等工事規制区域」や「特定盛土等規制区域」に指定されている地域では、工事の事前許可または届出が必要となります。
実質的な運用開始時期とは?
盛土規制法は2023年5月26日に全国で施行されましたが、実質的な運用の開始は、都道府県や政令市などの各自治体が「規制区域」を指定し、公表したタイミングからとなります。これにより、同じ法律でも自治体によって運用開始時期が異なる点に注意が必要です。
多くの自治体では2024年から2025年にかけて段階的に区域指定を進めており、実務上は「工事予定地がいつ・どこで規制区域に指定されたか」が重要な判断要素になります。
許可・届出が必要な場合の流れ
太陽光発電設備の設置に先立ち、規制区域において一定規模以上の造成工事を行う場合は、以下のようなフローで手続きを進める必要があります。
1. 規制区域の確認
まず、計画地が都道府県または市区町村によって指定された規制区域に該当しているかを確認します。規制区域には以下の2種類があります。
- 宅地造成等工事規制区域:人家の近くなどで災害の危険が高い区域。厳格な許可制度が適用されます。
- 特定盛土等規制区域:宅地以外の造成を対象とする区域。比較的緩やかな規制で、届出制度が中心となります。
2. 工事内容の整理
造成工事の規模、方法、予定期間、周辺環境などを整理し、法令で定める基準と照らし合わせて、許可申請または届出が必要かを判断します。
3. 許可申請・届出の実施
必要に応じて、造成計画図、排水計画、のり面保護の仕様、施工体制等をまとめた申請書を作成し、自治体に提出します。内容によっては、技術者(建設コンサルタントなど)の協力が必要となる場合もあります。
4. 審査・工事開始
許可が下りるまでの間、工事を着手することはできません。自治体からの質疑や補正依頼に適切に対応し、審査完了後に着工します。
注意すべき実務ポイント
許可がみなされるケースもあるが慎重に
都市計画法や森林法など他の法律に基づく開発許可を取得している場合、盛土規制法上の許可が「みなし許可」とされることがあります。ただし、これはすべてのケースに当てはまるわけではなく、造成工事の内容や範囲によっては別途手続きが必要になる場合もあるため、必ず個別に確認することが重要です。
「500㎡ルール」による見落としに注意
盛土の高さが1メートル未満であっても、面積が500平方メートルを超える場合は許可や届出の対象となります。これは、広い敷地を浅く造成するようなケースでも、盛土規制法の適用を受けることを意味しており、事業者側が見落としやすいポイントです。
規制区域外でも条例による独自規制がある場合も
盛土規制法とは別に、自治体独自の条例で太陽光発電設備の設置や開発行為に規制をかけている地域もあります。たとえば、一定規模以上の開発行為について独自の審査基準や事前協議制度を設けている市町村もありますので、計画地の都市計画や環境保全に関する条例の確認も並行して行いましょう。
まとめ:事前確認と専門家の連携が不可欠
盛土規制法は、盛土や切土といった土地造成を伴うすべての開発行為に対して、全国一律の安全基準を求める制度です。太陽光発電設備の設置においても、造成工事が含まれる限り、その影響を無視することはできません。
法令対応を怠ったまま造成工事を進めると、工事の中止命令、是正措置、罰則などのリスクが生じるだけでなく、地域住民との信頼関係を損なうおそれもあります。
本コラムで紹介した内容は、あくまで盛土規制法の一般的な概要と基本的な対応の一例です。実際の適用や手続きの詳細は、地域ごとに異なる場合があるため、必ず事前に計画地を管轄する都道府県または市区町村の担当窓口に確認してください。