経済産業省・中小企業庁が所管する小規模事業者持続化補助金(以下、持続化補助金)の第 18 回公募要領が公表されました。販路開拓や業務効率化の取組みに対し〈一般型・通常枠〉では最大 50 万円(補助率 2/3)の支援が受けられる本制度は、申請手続きのハードルが比較的低く、地域の小規模事業者にとって最も利用しやすい補助金の一つです。もっとも、要領を読み込むと従来公募からの細かな改訂が散見されます。そこで本稿では、契約書実務を専門とする行政書士の視点から「今回はどこが変わったのか」「採択・交付後に減額されないために押さえるべき書面は何か」を、文章のみで整理します。


1 申請スケジュールと公募の全体像

第 18 回は、例年より約 1 か月早い日程で募集が開始されました。郵送受付・電子申請の両方が可能ですが、電子申請(Jグランツ)は締切当日の 17 時まで、紙申請は当日消印有効と締切時刻が異なります。事業実施期間は交付決定通知日から約 10 か月後まで確保されており、年末商戦や年度末の販促にも余裕を持って対応できる設計です。


2 補助対象者の定義と留意点

持続化補助金の対象は「小規模事業者」に限定されます。製造業・建設業は常時使用する従業員 20 名以下、卸売業・小売業・サービス業は 5 名以下が原則です。一方で、医療法人・社会福祉法人・NPO 法人など「みなし大企業扱い」となる団体は対象外です。公募要領には雇用保険の加入状況や外注の業務委託先を含めた「実質的従業員数」のカウント方法が詳細に例示されており、判定を誤ると交付後でも全額返還となるリスクがあるため、顧問社労士と連携して早めに確認しましょう。


3 補助対象経費と積算の考え方

経費区分は従来同様「機械装置等費・広報費・展示会等出展費・旅費・開発費・資料購入費・雑役務費・借料・設備処分費・委託外注費」の 10 種類です。ただし今回は「GX・DX につながる投資かどうか」を審査で加点・減点する旨が明文化されました。たとえば機械装置等費で省エネ設備の導入や、外注費でEC サイトの AI チャットボット機能を開発する計画は、該当するキーワードをストーリーの中で強調することで採択率が上がりやすくなります。

積算では「相見積もりを原則 2 社以上取得」「単価 50 万円を超える場合は仕様書を添付」といったルールが従前より厳密に運用されています。要領には相見積もりが取れない場合の理由書ひな形も提示されているため、地域に業者が一社しかない場合でも、メール照会や価格調査を行った証跡を残しておくことが重要です。


4 申請書(様式2)の加点・減点項目

要領では加点項目として

  • 事業継続力強化計画の認定取得
  • 経営力向上計画の認定取得
  • 付帯する賃上げ計画の実施

が掲げられています。認定取得は申請から数週間〜数か月かかるため、今回の公募に間に合わせるなら即日着手が必須です。逆に、昨年度持続化補助金を受給したばかりの事業者は「再チャレンジ」扱いとなり加点が得られません。事業計画の完成度が高くても、形式点を取りこぼすと採択ラインを下回るため、チェックリスト形式で自己点検を行いましょう。


5 交付決定前後の契約書実務

公募要領は「交付決定日より前に着手した経費は補助対象外」という原則を何度も強調しています。発注書・請書・契約書・納品書・領収書のいずれかに交付決定前日付が付いていると、採択後の実績報告で減額判定となる例が増えています。対策としては、

  1. 交付決定通知書が届くまで正式発注を見送る
  2. どうしても納期上待てない場合は「条件付き仮発注書」を使用し、着手金を払わない
  3. 交付決定後に正式契約書を再度作成し、仮発注書との差分を説明資料として保存

という三段階でリスクを回避すると安全です。


6 実績報告と検査で否認されやすいポイント

交付決定後、事業完了から 30 日以内(かつ年度末まで)に実績報告を提出します。否認されやすい典型例は、

  • 見積より高い金額で発注したが変更契約書がない
  • ウェブサイト制作で納品 URL が細分化しておらず成果物が特定できない
  • 広告運用費のインプレッションレポートを添付していない

など「客観的証拠不足」です。行政書士としては、契約書に検収完了基準・成果物具体化・納品証明の様式まで定め、後日の実績報告で迷わないようあらかじめ設計図をクライアントに共有します。


7 事前着手制度とリスクの天秤

持続化補助金には緊急性を要する事業向けの「事前着手承認制度」もありますが、通常枠では採択率が下がったり、否認リスクが上がったりする傾向が否めません。どうしても事前着手が必要なケースでは、

  • 事業目的が災害復旧や移転など不可抗力である
  • 代替策が存在しない/待機による事業機会損失が大きい

といった合理的理由を補足資料で丁寧に説明し、承認後は交付決定と同レベルの証憑管理を徹底します。


まとめ

第 18 回公募の最大のポイントは、従来枠を踏襲しつつも 「書面の厳格化」と「GX・DX 視点の明確化」 が図られたことです。小規模事業者にとっては補助率 2/3 の魅力は大きいものの、申請書の説得力と契約書類の精度が採択・減額回避の分岐点となります。行政書士が関与するメリットは、(1) 見積・契約フェーズから補助要件を反映した条項整備、(2) 交付決定前後の発注管理、(3) 実績報告での証憑一括整理にあります。

申請期限が迫ると見積取得や契約書作成が後回しになりがちです。今回の公募要領を熟読し、必要書類を逆算スケジューリングすることで、採択率の向上と減額ゼロの補助金獲得を実現しましょう。