訪問購入(不要品出張買取)とは

訪問購入とは、事業者(購入業者)が消費者の自宅など店舗以外の場所を訪問し、その場で消費者から物品を買い取る取引のことです。いわゆる「出張買取サービス」で、貴金属や家具など不要品の買い取りを自宅訪問で行うケースがこれに当たります。訪問購入は平成25年の法改正で特定商取引法の規制対象に加えられた取引類型であり、訪問販売と同様に消費者トラブルが生じやすいことから厳格なルールが定められています。

契約書面の交付義務(特定商取引法第58条の7・第58条の8)

訪問購入に該当する取引を行う事業者(購入業者)は、消費者(売主)から物品の売却申込みを受けたとき、または売買契約が成立したときに、法定の事項を記載した書面(売買契約書面)を消費者に交付する義務があります(特定商取引法第58条の7第1項、第58条の8第1項)。契約成立前に申込みを受けただけの場合でも直ちに申込内容を書面で渡す必要があり、申込みを受けたその場で契約が締結された場合は契約書面の交付をもって申込書面の交付に代える形となります。書面は原則紙で交付しますが、消費者の事前承諾を得た場合には電子メール等の電磁的方法で提供することも認められています(法第58条の7第2項、第58条の8第3項)。いずれの場合も、法律に定められたタイミングで遅滞なく交付しなければならない点に注意が必要です。

契約書面に記載すべき事項(法定記載事項)

特定商取引法第58条の7第1項各号および施行規則により、訪問購入の契約書面には以下の事項を漏れなく記載しなければなりません。

  • 物品の種類:買い取る物品の大まかな種類(例:貴金属類、家電製品等)。
  • 物品の購入価格:消費者が売却する物品それぞれの買い取り価格(金額)。
  • 代金の支払時期・支払方法:事業者が消費者に代金を支払う時期(例:即時現金払い、後日振込等)と、その方法。
  • 物品の引渡時期・引渡方法:消費者から事業者への物品引き渡しの時期および方法(例:契約時にその場で引き渡し、後日集荷等)。
  • 契約の申込みの撤回・契約の解除に関する事項:いわゆるクーリング・オフ(後述)に関する事項。特定商取引法第58条の14第1項に基づき、書面を受け取ってから8日間は消費者が契約申込みの撤回や契約解除ができる旨等を明記します(同条第2項~第5項の規定内容を含めて記載)。
  • 物品の引渡し拒否に関する事項:特定商取引法第58条の15に基づき、消費者はクーリング・オフ期間中、たとえ引渡し時期を定めていても事業者(またはその承継人)に対して物品の引渡しを拒むことができる旨を記載します。これは後述するように、契約後も一定期間は消費者が手元に物品を留保できる権利があることを示す重要事項です。
  • 事業者(購入業者)の氏名・名称、住所、電話番号:契約当事者となる事業者の氏名(法人の場合は名称)および所在地、連絡先電話番号。法人であれば代表者名も記載します。
  • 契約の申込みまたは締結を担当した者の氏名:実際に訪問対応を行った従業員など担当者の氏名。
  • 契約の申込み日または契約締結年月日:消費者が売却の申込みをした日付、または契約が成立した日付。
  • 物品名および特徴:買い取る具体的な商品の名前(例:◯◯メーカー製◯◯モデルの腕時計)と、その状態・特徴など(外観や動作状況等の特記事項があれば記載)。
  • 物品や付属品の商標・製造者名・販売者名・型式:物品本体や付属品にブランド名やメーカー名、販売元、型番等の表示がある場合はその内容。
  • 契約の解除に関する定め(約定)がある場合はその内容:法律で認められたクーリング・オフ以外に契約上の解除条件や解約権等を特約で定めている場合は、その内容。
  • その他の特約がある場合はその内容:代金の一部前払い等、上記以外で当事者間で特別な合意事項があればその内容。

以上が主な記載事項で、法律および施行規則により細かく定められています。事業者はこれらを漏れなく正確に記載した契約書面を作成し、消費者に交付しなければなりません。

契約書面の形式上の要件(表示方法)

契約書面には単に必要事項を記載するだけでなく、表示方法についてもルールがあります。消費者庁のガイド等によれば、書面の字句の大きさは8ポイント以上(官報の文字と同程度以上)の大きさで印字されていなければなりません。特に重要な事項については強調表示の義務があり、消費者への注意喚起文(「本書面をよくお読みください」等の文言)は赤枠で囲み赤字で記載する必要があります。また、クーリング・オフに関する事項および物品引渡し拒否に関する事項についても、書面上で明確に目立つよう赤枠で囲み赤字で記載しなければならないと定められています。これらの表示上の工夫により、消費者にとって契約書面の重要ポイントが一見して分かるよう配慮されています。

クーリング・オフと物品引渡し拒否権

クーリング・オフ(契約解除権):訪問購入では、消費者は契約書面を受け取った日から起算して8日間(※書面を受け取った日を1日目と数えます)以内であれば、理由を問わず契約の申込みを撤回したり契約を解除したりすることができます(特定商取引法第58条の14第1項)。クーリング・オフの行使は書面(ハガキ等)または電子メールなど電磁的記録で行うことができ、事業者宛に期間内に発送または送信すれば有効です。契約書面にはこのクーリング・オフの方法や期間が必ず記載されており、消費者に権利行使を知らせるようになっています。なお、事業者がクーリング・オフに関して事実と異なる説明をしたり威圧的な態度で消費者を困惑させたりしてクーリング・オフを妨げた場合は、8日間の期間を過ぎても消費者はクーリング・オフを行使できると法律で定められています(不実告知・威迫行為への救済規定)。

物品の引渡し拒否権:訪問購入における重要な特徴として、消費者(売主)は契約後であっても一定期間は売却物品の引渡しを拒める権利があります(特定商取引法第58条の15)。具体的には、クーリング・オフ期間内であれば、たとえ契約時に引渡し日を約束していた場合でも、その期間中は事業者やその転売先などに対して物品を渡すのを拒否し、自分の手元に留めておくことができます。契約書面にはこの引渡し拒否権についても明記され、消費者が権利を行使できることを周知する仕組みになっています。また、事業者側もクーリング・オフ期間中に消費者から物品を引き取る際には「期間内は引渡しを拒める権利がある」ことを口頭で告げる義務があります(法第58条の9)。これらの規定により、訪問購入では消費者が一旦契約してしまってもすぐに商品を取り上げられてしまうことがないよう保護が図られています。

違反した場合の措置

以上の契約書面交付義務や記載事項の規定に違反した場合、事業者には行政処分や罰則が科される可能性があります。たとえば、法定書面を交付しなかったり必要事項が欠けている契約書を渡した場合、消費者庁等の主管官庁から業務改善指示(特定商取引法第58条の12)や一部業務停止命令(同第58条の13)などの行政処分を受けることがあります。悪質なケースでは罰則の適用もあり、書面不交付や虚偽記載は刑事罰(懲役や罰金)の対象行為とも定められています。訪問購入の取引を行う事業者は、これら法令遵守義務を十分に理解し、適切な契約書面を交付することで消費者とのトラブル防止に努めることが肝要です。