日本では農地の保全を目的として、農地を他の用途に転用することに厳しい規制が設けられています。太陽光発電事業者が農地を利用して設備を設置する場合、事前に確認すべき法律上・実務上のポイントが数多く存在します。本記事では、契約書作成を専門とする行政書士の視点から、農地利用に関する重要事項を解説します。特に、農業振興地域(いわゆる「青地」)内農地転用の原則禁止と例外手続、農地法第5条に基づく転用許可制度の基本要件、地目変更の必要性とタイミング、そして土地の賃貸借・売買契約書における注意文言について取り上げます。
農業振興地域内(青地)農地の転用:原則禁止と農振除外手続
まず、対象農地が「農業振興地域」の農用地区域(青地)に指定されているかを確認しましょう。青地に指定された農地は将来にわたり農地として利用すべき土地とされており、原則として転用が禁止されています。この青地農地を太陽光発電用途に利用するには、事前に市町村が定めた農業振興地域整備計画を変更し、その農地を農用地区域から外す「農振除外」という手続きを経なければなりません。農振除外が認められてはじめて、その農地は農用地区域外(白地)の扱いとなり、農地転用許可申請へ進めるようになります。
農振除外の申出が認められるための要件は非常に厳しく、具体的かつ必要性の高い転用計画があること、代替となる非農地が他に存在しないこと、転用により周辺農業に支障を及ぼさないことなど、複数の条件をすべて満たす必要があります。また、この手続きには半年から1年程度の時間を要するのが一般的です。したがって、青地農地で太陽光発電事業を計画する際は、計画段階で十分な時間的余裕を見込むとともに、要件該当性について事前に自治体担当部署や専門家に相談することが重要です。なお、農振除外が不要な白地農地であっても、後述する農地法上の転用許可は別途必要となる点に注意してください。
農地法第5条に基づく農地転用許可制度の基本要件
農地を太陽光発電施設用地として利用するには、農地法に基づく転用許可を受ける必要があります。特に事業者(法人等)が農地を取得または借り受けて転用する場合には農地法第5条の許可申請が該当します(※自己所有の農地を自ら転用する場合は第4条)。許可審査では、立地基準(農地の所在地や性質による基準)と一般基準(計画内容に関する基準)の両方を満たす必要があります。
立地基準としては、農地の区分に応じて許可の可否が概ね決まります。例を挙げると、農業振興地域内の農地や生産性の高い優良農地(第1種農地等)は原則不許可、一方で市街地化が進んだ区域の農地(第3種農地)は原則許可とされます。その中間に位置する第2種農地については、他に適当な転用候補地がない場合などに限り許可が下りる可能性があります。このように、農地の立地条件によって転用のハードルが異なる点を認識しておきましょう。
一般基準では、主に計画の実現可能性と周囲への影響がチェックされます。具体的には、転用目的の確実な実施が見込まれること(他法令の許認可や資金計画も含め問題なく実行可能であること)、周辺農地への悪影響が防止されていること(排水対策や景観・日照への配慮等)、そして権利関係者の同意が得られていること(土地所有者の承諾はもちろん、必要に応じて農業用水管理団体等の了解も含む)といった点が審査されます。これらの条件を一つでも欠く場合、転用許可は下りません。
なお、市街化区域内にある農地については例外として、事前に所定の届出を行うことで農地法第5条の許可を要さずに転用できる制度があります(いわゆる第5条第1項第6号届出)。対象となる地域かどうかは、事前に農業委員会に確認しておくと良いでしょう。また、許可を得ずに農地を無断転用した場合には、工事停止命令や原状回復命令に加え、3年以下の懲役または300万円以下の罰金(法人の場合は1億円以下の罰金)といった厳しい罰則が科される可能性があります。必ず許可取得後に着工するよう徹底してください。
地目変更の必要性とタイミング
農地転用の許可を受け実際に農地としての利用をやめた後は、登記簿上の地目変更手続きを適時に行う必要があります。地目とは土地の用途区分を示すもので、登記記録上は「田」「畑」「宅地」「雑種地」など23種類に分類されています。農地から太陽光発電設備用地へ用途が変わった場合、登記上も「田」や「畑」から適切な地目(例えば「雑種地」や「原野」等)に変更しなければなりません。
地目変更の申請は、太陽光発電設備の設置により土地の現況が明確に農地ではなくなった段階で、法務局に対して行います。農地転用許可証明書(許可通知書)を添付して申請することで、正式に登記記録上も農地以外の土地となります。この地目変更を怠ると、税金計算や将来の土地取引に支障が生じる可能性があるため注意が必要です。例えば、農地として課税上の優遇を受けていた土地が発電用地となったにもかかわらず地目変更されていないと、不適正な税優遇を受け続ける事態になりかねません。また、登記と実態の不一致は売買や融資の場面でリスク要因となります。したがって、農地からの転用後は速やかに地目変更登記を行い、公的記録上も用途変更を反映させることが大切です。
土地契約(賃貸借・売買)書面における注意文言
最後に、農地を太陽光発電事業用に賃貸借または売買する際の契約書上の注意点です。農地取引特有の法規制を踏まえ、契約書には以下のような文言・条項を盛り込む必要があります。
- 許可取得を停止条件とすること:農地法上、許可前に農地の権利移転や賃借契約を締結しても法律上無効となるため、「農地法第5条の許可取得を停止条件とする」旨を明記します。つまり、「許可が下りた時点で初めて契約の効力が生ずる」と定め、許可が得られなければ契約は成立しない(白紙解除となる)形にします。
- 許可不取得時の取り決め:一定期間内に許可が下りなかった場合に契約を解除できる旨(解除条件)や、その際の手付金・中間金の返還方法についても定めておきます。許可未取得を理由とする契約解除時には違約金・損害賠償を相互に請求しないこと、受領済み金銭は全額返還することなどを明文化し、トラブルを防止します。
- 地目変更等に関する特約:契約書上で、対象土地が農地であることと転用後に地目変更を行う前提であることを双方が認識している旨を記載します。そのうえで、買主(または借主)に対し「農地法許可取得後、速やかに自己責任と費用負担で地目変更登記を行う」義務や、許可取得までは現況を変更しないこと、許可申請手続きに土地所有者も協力すること等の特約を設けておくと安心です。
以上の点を踏まえ、農地を利用した太陽光発電事業では法令に則った周到な手続きと契約条件の設定が欠かせません。煩雑なプロセスではありますが、行政書士など専門家の助言を得ながら進めることで、法的リスクを回避しつつ円滑に事業を推進することが可能です。万全の準備を整え、適切な手続きを踏むように心がけましょう。