訪問買取(訪問購入)は、事業者が消費者の自宅などへ訪問してその場で物品を買い取るビジネスです。近年、こうした取引での消費者トラブルが増加したため、「訪問購入」は特定商取引法の規制対象に組み込まれました。そのため訪問買取事業者は関連法規を遵守し、適切な契約書を交付することが求められます。以下では、契約書作成に精通した行政書士の立場から、訪問買取に関係する主要な法律上のポイントと契約書に盛り込むべき条項例を解説します。

特定商取引法による訪問購入の規制

訪問購入時の勧誘ルール: 特定商取引法では、訪問購入における悪質な勧誘行為を防ぐため、事業者(購入業者)に対し以下のような規制を課しています。

  • 不招請勧誘の禁止・事前確認義務: 消費者(売主)から依頼を受けていない相手に突然自宅を訪問して買取の勧誘を行うことは禁止されています。また、勧誘前に相手の意思を確認し、契約する意思がないと示された場合はその場で勧誘を中止し、それ以上迫ってはいけません(後日の再勧誘も禁止)。
  • 事業者情報の明示義務: 勧誘に先立ち、事業者の氏名(名称)、訪問買取に来た目的、購入希望物品の種類を相手に告げる必要があります。名刺を提示して自社情報と訪問目的を明確に伝えましょう。
  • 勧誘時の禁止行為: 勧誘中に虚偽の説明をしたり、重要な事実を告げなかったりする不実な勧誘は厳禁です。また、消費者を威圧して困惑させるような言動も禁止されています。特にクーリング・オフ(後述)の行使を妨げるために嘘をついたり脅したりする行為は違法です。

契約書面の交付義務: 訪問買取では、特定商取引法第58条の7・第58条の8に基づき、事業者は売買契約が成立した際(申込みを受けただけの場合も速やかに)に所定の事項を記載した書面(契約書面)を消費者に交付しなければなりません。交付は原則紙で行いますが、事前に消費者の承諾を得ればメール等の電子的方法も認められます。法律で定められたタイミングを守って遅滞なく交付しましょう。

契約書面の記載事項: 契約書に記載すべき内容は法律と施行規則で詳細に規定されています。主なものとして「物品の種類・名称・特徴」「各物品の買取価格」「代金の支払方法・時期」「物品の引渡し時期・方法」「クーリング・オフおよび引渡し拒否に関する説明」「事業者・担当者の情報」「契約日付」「特約事項」などが挙げられます。これら重要事項は書面上で明確に強調表示し、「本書面をよくお読みください」といった注意喚起やクーリング・オフの説明も目立つように記載する決まりです。

クーリング・オフと引渡し拒否権: 訪問購入契約では、消費者は契約書面を受け取った日から8日間は理由を問わず契約の解除(申込みの撤回を含む)を行えます。クーリング・オフが実行された場合、業者は受け取った品物を消費者へ返還し、支払済み代金も全額返金しなければなりません(送料等も事業者負担)。また、契約後でも消費者はクーリング・オフ期間中であれば商品の引渡しを拒むことが可能です。事業者がクーリング・オフを妨げるような虚偽説明や威圧行為を行った場合、8日を過ぎても契約解除が認められる救済規定もあります。これらに違反すると行政処分や罰則の対象となるため注意が必要です。

古物営業法に基づく本人確認と帳簿管理

訪問買取には古物商許可が必要であり、古物営業法上の義務も守らなければなりません。中古品取引を悪用した盗品流通の防止のため、取引相手の本人確認取引記録(帳簿記載)の義務が課されています。

本人確認義務: 消費者から商品を買い取る際は、公的な身分証で売主の氏名・住所・年齢を確認し、その記録を残す必要があります。取引総額が1万円未満の場合は本人確認を省略できる場合もありますが、一部商品(ゲームソフトやオートバイ等)は金額に関係なく確認が必要です。

帳簿記載義務: 古物商は、取引のたびに日時や商品・相手の情報、金額などを古物台帳に記録し、少なくとも3年間保存しなければなりません。近年の法改正により、特定の金属製品については少額取引でも本人確認と帳簿記録が必須となりました。これら古物営業法のルールを遵守することは、盗品を誤って買い受けるリスクを避ける上でも重要です。

契約前の事前説明と契約条項の明確化

契約を結ぶ前には、お客様(売主)に査定額や支払条件、引渡し方法など取引内容を十分に説明し、双方の権利義務について正しく理解してもらうことが不可欠です。契約書面もできるだけ平易な言葉で作成し、クーリング・オフ制度や引渡し拒否権など消費者に重要な事項は太字や色を用いて強調します。説明不足や条項不明瞭による「聞いていない」「説明と違う」といったトラブルを防ぐため、疑問点は契約前に解消しておきましょう。

契約書に盛り込むべき条項例

訪問買取の売買契約書に盛り込む主な条項とそのポイントを紹介します。

  • 買取商品・金額・支払条件の明記: 契約書には、買い取る物品ごとの名称・種類と買取金額、さらに代金の支払方法・支払時期を明記します。メーカーやブランド、型番、傷や動作状況といった特徴も具体的に記載しましょう。どの商品をいくらで買い取り、代金をいつどのように支払うかを示しておけば、品物や支払をめぐる後日の誤解を防止できます。
  • 契約解除に関する条項(クーリング・オフ等): 消費者が契約後一定期間内に無条件で解除できるクーリング・オフについて、期間(書面受領日を1日目として8日間)と行使方法を条項に明示します。これは契約書に必ず記載すべき事項です。そのうえで、法律上のクーリング・オフ以外に契約上定める解除条件があれば(例:代金支払遅延時の解除権)、それも盛り込んでも構いません。ただし、消費者にクーリング・オフ権を放棄させるような特約は無効であり、勧誘時にそのような念書を書かせる行為も厳禁です。
  • 物品の引渡し方法と解除時の対応: 買取商品の受け渡し方法について契約書で取り決めます。契約成立後すぐに品物を持ち帰る場合でも、消費者は8日間引渡しを拒めるため、その期間中は商品を適切に保管します。また、契約解除(クーリング・オフ等)が行われた場合の手続きも条項で規定しましょう。解除時には事業者負担で速やかに商品・代金を返還すること、第三者に渡っていた場合は可能な限り解除の効果を及ぼすよう努めることなど定めておけば、万一の際にも慌てずに済みます。
  • 契約不適合責任に関する特約: 売買における契約不適合責任については、売主である消費者の責任を免除または制限する特約を設けるのが一般的です。すなわち、事業者は商品を現状有姿のまま引き取り、後日不具合が見つかっても原則として売主に責任を問わないという内容です。消費者に不利益とならない形であればこの特約は有効で、売主は「売却後に欠陥が見つかっても責任を問われない」という安心感を得られます。ただし、商品が盗品や偽ブランド品だった場合は例外です。契約書には「万一、当該商品が盗品または違法な模造品であると判明した場合、契約を解除し売主は受領済み代金を返還する」旨を盛り込み、必要に応じて警察への通報についても触れておきましょう。

これらの条項を整備した契約書を適切に交付・保管することで、訪問買取業者は法令遵守はもちろん、消費者との信頼関係を築くことができます。法定の義務を確実に果たし、契約条件を明確に定めた書面を取り交わせば、「聞いていない」「約束と違う」といったトラブルを未然に防ぎ、健全な取引を続けられるでしょう。