近年、生成系AI(Generative AI)の進歩がめざましく、文章や画像、音楽など、さまざまなコンテンツがAIによって自動的に生み出されるようになりました。これまで人間のクリエイターが担ってきた役割の一部をAIが代替することで、業務効率や創造性の拡張といったメリットが広く認知されています。しかし同時に、AIが生成したコンテンツの著作権は誰に帰属するのか、侵害リスクはどのように管理するのかといった法律・契約面の問題が浮上しています。特に企業間でAIコンテンツをやり取りする際は、その取扱いについて契約書で明確に定めておかなければ、予期せぬトラブルに発展するおそれがあります。

本コラムでは、行政書士の視点からAI生成コンテンツと著作権に関する注意点を整理し、契約書の条項をどう定めるべきかについて解説します。AI時代の新たなクリエイションを安全かつ有効に活用するため、ぜひご参考にしていただければ幸いです。


1.AI生成コンテンツとは

1-1.AI生成コンテンツの概要

AI生成コンテンツとは、入力データ(プロンプト)をもとにAIが自動的に創作した文章や画像、音声、動画などを指します。最近では、大規模言語モデル(LLM)を搭載したチャットボットがテキストを生成する例が代表的ですが、画像生成AIや作曲AIなども広く利用され始めています。これらは従来の「人間による創作」とは異なり、ソフトウェア内部の学習モデルが膨大なデータを学習し、そのパターンに基づいて新たなコンテンツをアウトプットする仕組みです。

1-2.AI生成と著作物の関係

日本の著作権法においては、一般的に「思想又は感情を創作的に表現したもの」が著作物として保護されます。さらに、著作物として認められるには「人間の創作的関与」が不可欠と解されています。AI生成の場合、人間が直接コンテンツを制作するのではなく、AIのアルゴリズムが大きく関与するため、その創作性の判断や帰属関係が複雑になる可能性があります。

現行の法律上、AIそのものには「著作権者となる人格」が認められていません。そのため、AIが生み出した結果物の著作権がどうなるかは、最終的には「人間の関与」「制作プロセス」「指示の具体性」などによって変わると考えられます。


2.AI生成コンテンツをめぐる主な著作権上の争点

2-1.著作物性の有無

AI出力のコンテンツが著作物かどうかは、まず大きな争点になります。前述のとおり、日本では人間の創作性が著作物成立の前提とされてきました。AIが自動生成した場合、人間の関与がほとんど無いとみなされれば、著作物としての保護を得られない可能性があります。その一方で、AIによるアウトプットに対して人間が創作的な修正や編集を加えれば、その部分については著作物としての保護が及ぶ場合もありえます。

2-2.学習データの著作権侵害リスク

AIが学習に利用したデータ(文章、画像、音楽など)の著作権処理も問題となります。AI開発者が無断で他人の作品を学習に使っていた場合、著作権侵害の主張がなされる可能性が指摘されています。たとえば学習データから特定の作品をほぼ再現するような出力が得られた場合、著作権者が権利侵害を訴えるケースが今後増えるかもしれません。依頼主がAI生成コンテンツを利用するにあたっては、そのコンテンツがどのような学習データをもとに制作されたかを十分に確認することが重要です。

2-3.著作者人格権との関係

仮にAI出力のコンテンツが著作物として認められた場合でも、著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権など)は誰が行使できるのでしょうか。AIそのものには人格がない以上、通常は人間の利用者やAI開発者などが何らかの著作権者として取り扱われるか、あるいは著作物として認められない扱いになる可能性があります。この点が契約書で明確にされていないと、後日発生する改変・翻案などの扱いが曖昧になるおそれがあります。


3.契約条項をどう定めるか――ポイントと実務例

AI生成コンテンツをやり取りする契約においては、以下のようなポイントを条文化しておくことが望ましいでしょう。

3-1.著作権の帰属・許諾範囲

まずはAIが生成したコンテンツについて、「著作物として取り扱うか否か」を前提として、著作権をどちらが取得するかを明記することが肝要です。具体的には次のような条項が考えられます。

  • (1) コンテンツの著作物性を前提とした場合
    • 「当該コンテンツの著作権(著作者人格権を除く)その他一切の権利は、依頼主に譲渡する」
    • 「生成コンテンツの二次利用、改変、翻案等を行う権利を依頼主が専有する」
  • (2) 著作物性が否定されるリスクを考慮した場合
    • 「AI出力物に著作権が生じない場合であっても、本契約に基づいて依頼主は当該コンテンツを自由に利用できるものとし、提供者は第三者からの権利主張がないことを保証する」

このように、万が一著作物としての保護を受けられない可能性も踏まえながら、依頼主が安心してコンテンツを使えるようなライセンス条項を整備することが望ましいです。

3-2.学習データの知的財産権保証

AI生成コンテンツの利用者にとっては、コンテンツ自体のみならず、その生成プロセスに問題がないことも重要な要素です。そこで「提供者がコンテンツを生成するにあたり、適法に入手したデータや素材を用いていること」「第三者の著作権や商標権、肖像権等を侵害していないこと」を保証する条項を設けるとよいでしょう。

例:保証条項
「提供者は、AI生成コンテンツの学習・生成において適法に取得したデータを使用しており、第三者の権利を侵害するおそれのないことを保証する。万が一第三者から侵害の主張や紛争が生じた場合、提供者が自己の責任と費用をもって対応し、依頼主に一切の損害を与えないものとする」

こうした条項を置いておけば、万一著作権侵害トラブルが発生した場合でも、依頼主が直接的な責任を追及されるリスクを回避しやすくなります。

3-3.改変・二次利用に関する取り扱い

AIが生成したコンテンツを、依頼主が別の用途で再利用したり、改変して商用に供したりすることも考えられます。たとえば、「生成された画像を広告バナーに利用する」「文章を一部修正して自社ブログに掲載する」といったケースです。その際に、提供者の許諾が必要なのか、あるいは自由に行えるのかを明確化しておくことが大切です。

  • 改変・翻案の許諾
    「依頼主は、生成されたコンテンツを自由に改変し、翻案物を作成することができる」
  • 著作者人格権不行使特約
    もし著作物として権利が発生しうる場合には、「提供者(または著作者)が著作者人格権を行使しない」旨の合意を得ておくと、後々の権利行使リスクを回避できます。

4.実務で気をつけたいトラブル回避策

4-1.定期的な契約内容の見直し

AI関連の技術や法制度は日進月歩で変わっています。現時点で想定していないような利用形態や判例が今後登場する可能性は十分にあり、契約書の内容もアップデートが必要です。契約期間を長期に設定する場合は、定期的に見直す条文を追加するなど、運用上の柔軟性を確保しましょう。

4-2.利用者側のコンプライアンス意識

AIが生成したコンテンツであっても、必ずしも「権利問題がフリー」というわけではありません。機械学習の過程で得られたデータが第三者の著作物を含む場合や、生成された表現が特定の著作物と酷似している場合など、リスクはゼロとは言い切れません。契約書上の保証条項をしっかり定めるとともに、利用者自身もコンプライアンス意識を高く持ち、怪しいケースでは専門家の意見を仰ぐなど慎重な対応が求められます。

4-3.パブリックドメインとの混同に注意

AI生成物は、しばしば「パブリックドメインになり得る」「著作権の対象外だから誰でも使える」と説明されることがあります。しかし、そのような扱いが法的に確立しているわけではありません。先述のように、人間のクリエイティブな関与が少しでもあるのであれば、その部分は著作物として保護される可能性があります。利用者側が勝手に「無権限で利用OK」と判断すると、思わぬトラブルを招くおそれがあるため注意が必要です。


5.まとめ

AI生成コンテンツは、人間の創造性を補完・拡張する強力なツールとして、今後ますます多くの企業や個人に利用されることでしょう。しかし、AIが生み出すコンテンツが著作物とみなされるかどうか、またその著作権や関連する権利義務関係がどのように整理されるかは、現行法だけでは十分にカバーできないグレーゾーンが存在しています。

こうした中で、生成系AIを使った制作業務を他社に依頼したり、逆にAI出力物をクライアントへ提供したりする場合には、契約書で権利帰属・保証・改変権などを可能な限り明確にしておくことが欠かせません。万が一紛争に発展したときに備えて、学習データの使用許諾状況や著作権侵害リスクに関する条項をきちんと盛り込むことは、企業のリスクマネジメントに直結します。