結婚は、愛情の結びつきであると同時に、二人が生活をともにし、財産を分け合っていくという、現実的な共同生活の始まりでもあります。そのスタートにあたって、お金や生活のルールをあらかじめ話し合い、書面にまとめておくのが婚前契約書です。欧米ほど一般的ではないものの、価値観の多様化や再婚の増加を背景に、日本でも関心が高まっています。とはいえ、「いったい何を決めればよいのか」「堅苦しくならないか」と戸惑う方は少なくありません。実のところ、婚前契約書で話し合う事柄の多くは、結婚を機に一度は向き合っておきたい、ごく現実的なテーマです。本コラムでは、契約書をはじめとする書面作成を専門とする立場から、結婚前に話し合っておきたい10の項目をご紹介します。

婚前契約書とは何か

婚前契約書とは、結婚しようとする二人が、婚姻中や万一の離婚の際の財産や生活のルールについて、あらかじめ取り決めておく書面です。民法には、婚姻の届出前に夫婦の財産関係を定めておく夫婦財産契約という制度があり、婚前契約書は、これを含めて、より広く二人の約束事を整理するものと理解するとわかりやすいでしょう。

ここで押さえておきたいのが、時期の制約です。夫婦の財産関係についての取り決めは、婚姻の届出の前に結んでおく必要があり、婚姻後は原則として変更できないとされています。つまり、結婚してからでは遅い部分があるということです。だからこそ、結婚前の落ち着いた時期に、二人で話し合っておく意味があります。

話し合っておきたい10項目

第一に、結婚前から持っている財産の確認です。 それぞれが結婚前から所有している預貯金、不動産、有価証券などを、個人の財産として明確にしておきます。どこまでが各自のものかをはっきりさせておくことが、すべての出発点になります。

第二に、結婚後に得る財産の扱いです。 結婚後の給与や、二人で築いた貯蓄、購入した住宅などを、どのように位置づけるかを話し合います。共有とするのか、それぞれの名義や負担に応じて分けるのかを、あらかじめ整理しておきます。特に、共働きで二人とも収入がある場合や、どちらかが事業を営んでいる場合には、財産が入り混じりやすいため、考え方を決めておく意義が大きくなります。

第三に、生活費の分担です。 家賃や食費、光熱費といった日々の生活費を、どちらが、どのような割合で負担するのかを決めておきます。収入に差がある場合や、どちらかが仕事を離れる時期がある場合には、その点も踏まえて、納得のいく形を話し合っておくと、後の不満を防げます。生活費の負担は、日々のことだけに、積み重なると大きなわだかまりになりやすいためです。

第四に、お互いの債務の扱いです。 一方が結婚前から抱えている借入れや、結婚後に個人の名義で負う債務について、他方が責任を負わないことを確認しておきます。相手の借金を知らないうちに背負わされる事態を避けるための、重要な取り決めです。あわせて、夫婦で協力して住宅ローンを組むなど、共同で債務を負う場合の負担のあり方についても、話し合っておくとよいでしょう。

第五に、家事や育児の分担です。 法的な強制力にはなじみにくい部分ですが、家事や育児をどう分担するか、働き方をどうするかといった生活の方針を、言葉にして共有しておくこと自体に、大きな意味があります。認識のずれは、後の不和の大きな原因になるからです。

第六に、貯蓄や資産形成の方針です。 毎月いくらを貯蓄に回すのか、投資や保険にどう向き合うのか、大きな買い物をどう決めるのかといった、お金に対する考え方をすり合わせておきます。金銭感覚の違いは、些細なようでいて、夫婦関係に影を落としやすいところです。結婚してから初めて互いの考え方の違いに気づくより、前もって率直に話しておくほうが、ずっと穏やかに向き合えます。

第七に、親族との関わり方です。 双方の親との同居や介護、親族への金銭的な援助について、どのように向き合うかを話し合っておきます。これも法的な拘束にはなじみにくい面がありますが、価値観を確認しておくことで、将来の衝突を和らげられます。

第八に、万一のときの財産の分け方です。 もし離婚に至った場合に、財産をどのように分けるのかについて、あらかじめの考え方を示しておきます。ただし、この取り決めは、実際に離婚する時点の事情によって見直される余地があり、この書面だけで将来を完全に縛れるわけではない点には、留意が必要です。あくまで、当事者の当初の意向を書き残しておくものと位置づけるのが適切です。

第九に、子どもに関する方針です。 子どもを持つかどうかの考え方や、教育の方針などを話し合っておきます。ただし、万一離婚した場合の親権や養育費については、何よりも子どもの利益を基準に、その時々の状況に応じて判断されるべきもので、結婚前にあらかじめ確定しておくことには限界があります。あくまで現時点での方針として整理しておくのが適切です。

第十に、不貞など、約束に反したときの取り決めです。 貞操を守ることなど、夫婦としての基本的な約束と、それに反した場合の考え方を話し合っておきます。もっとも、相手の自由を過度に縛る条項や、あまりに高額な違約金の定めは、公序良俗に反するものとして効力が認められないことがあるため、相当な範囲にとどめる配慮が必要です。

婚前契約書を作るうえで大切なこと

これらの項目を取り決めるうえで、いくつか心に留めておきたい点があります。まず、婚前契約書は、相手を疑うためのものでも、一方に有利な条件を押しつけるためのものでもないということです。むしろ、二人が同じ方向を向いて生活していくために、価値観をすり合わせ、認識のずれをあらかじめ解消しておく、前向きな話し合いの場だととらえるのが適切です。

また、取り決める内容には、法的な効力を持つものと、そうではない心構えに近いものとが混在します。財産や債務に関する取り決めは契約として意味を持ちますが、家事分担や親族との関わり方といった事柄は、必ずしも強制できるものではありません。この両者を区別したうえで、何を書面に残し、どのような表現で定めるかには、専門的な視点が役立ちます。

まとめ

婚前契約書で話し合っておきたいことは、結婚前からの財産や、結婚後の財産、生活費や債務の扱いから、家事や育児、親族との関わり、そして万一のときの備えまで、生活の幅広い側面に及びます。これらを結婚前の穏やかな時期に二人で語り合い、整理しておくことは、将来の無用な争いを防ぐだけでなく、お互いの価値観への理解を深め、夫婦の土台を固めることにつながります。

当事務所は、契約書をはじめとする書面作成を専門とする行政書士事務所として、婚前契約書の作成を承っております。二人の状況やお考えを丁寧にお伺いし、効力の及ぶ範囲も踏まえて、実情に合った内容に整えます。これから結婚を控えておられる方は、ぜひお気軽にご相談ください。

お問い合わせ

contact