無料または低価格のオンラインセミナーで見込み客を集め、その後に本命の商材やサービスを販売する。ウェビナーの普及とともに、こうした手法は広く使われるようになりました。しかし、セミナーの進め方や販売の方法によっては、特定商取引法の規制が及び、気づかないうちに違反状態に陥ったり、契約から長い時間が経ってもクーリング・オフを主張されたりするおそれがあります。本コラムでは、契約書作成を専門とする立場から、オンラインセミナー後に商材を販売する際の注意点を、特定商取引法の観点を中心に整理します。

まず「どの取引類型に当たるか」を見極める

特定商取引法の規制は、取引の類型ごとに定められています。そのため、まず自社の販売がどの類型に当たるのかを正確に見極めることが、すべての出発点になります。オンラインセミナー後の販売でよく問題になるのは、通信販売、電話勧誘販売、そして業務提供誘引販売取引です。同じ「セミナーからの販売」でも、申込みや契約に至るまでの流れによって、当てはまる類型が変わり、課される義務も変わってきます。

ネットで完結すれば「通信販売」

セミナーの後、参加者が自分でウェブサイトの申込フォームなどから購入する形であれば、通信販売に当たります。通信販売では、いわゆる特定商取引法に基づく表記として、事業者の氏名・住所・連絡先、販売価格、支払の時期と方法、商品の引渡時期、返品の可否と条件などを表示しなければなりません。「誰でも簡単に稼げる」といった根拠の乏しい表現は、誇大広告の禁止に触れるおそれがあります。

通信販売にはクーリング・オフの制度はありませんが、返品の特約を表示していなければ、購入者は商品の受領後八日間は返品できるという法律上のルールがある点にも注意が必要です。

オンラインセミナーそのものが「電話勧誘販売」になり得る

ここで最も注意したいのが、電話勧誘販売です。多くの事業者は「セミナーは勧誘の場ではなく、販売はその後の話だ」と考えがちですが、この理解は危険です。

電話勧誘販売とは、事業者が電話をかけ、あるいは一定の方法で消費者に電話をかけさせて、その電話の中で勧誘を行い、契約の申込みや締結に至る取引をいいます。ここでいう「電話」は、通常の電話回線によるものに限られません。消費者庁の解釈では、インターネット回線を使った音声通話や、映像を伴うウェブ会議システムを用いた通話も、この「電話」に含まれるとされています。つまり、ウェブ会議ツールを用いたオンラインセミナーやオンライン面談も、「電話」による勧誘の場になり得るのです。

さらに、事業者がオンライン会議を設定し、参加者に会議のURLを送って参加を促す行為は、消費者庁の解釈上、「電話をかけ(させ)る」に当たると考えられています。そのうえで、セミナーの中で商品やサービスの説明・勧誘が行われ、その後に参加者が契約を申し込めば、電話勧誘販売に該当し得ることになります。対面で行われる場合を除けば、オンライン会議での説明から契約に至る流れは、基本的に電話勧誘販売に当たり得ると考えておくのが安全です。ただし、セミナーから契約までに相当の期間が空いた場合には、その勧誘によって契約したとはいえないと評価されることもあります。

もちろん、セミナーの後に参加者へ個別に電話をかけて購入を促す、いわゆる電話でのクロージングも、同じく電話勧誘販売に当たり得ます。申込みがその後にメールやウェブで行われても、勧誘が電話やオンライン会議で行われていれば該当し得ます。「申込みはネットだから通信販売にすぎない」という思い込みが、最も危ういのです。勧誘の目的を告げずに、あるいは特別に有利な条件をうたって参加を促す場合には、該当の可能性がいっそう高まります。

電話勧誘販売に当たると、事業者には重い義務が課されます。勧誘に先立って事業者名・勧誘の目的・商品等を告げること、契約しない意思を示した相手への勧誘を続けないこと、申込書面や契約書面を交付すること、事実と異なることを告げないことなどです。そして、書面を受け取った日から八日間のクーリング・オフや、不実告知などによる取消権も認められます。通信販売にはないクーリング・オフが、電話勧誘販売には存在するのです。

「稼げる」をうたう商材は業務提供誘引販売取引に注意

セミナーで販売される商材が、「この教材やツールを使って業務を行えば収入が得られる」といった形で、稼げることを前面に打ち出すものである場合には、業務提供誘引販売取引に当たる可能性があります。副業や起業の支援をうたう高額商材が、これに該当することは少なくありません。

この類型では、契約前の概要書面と契約時の契約書面の交付、誇大広告や不実告知の禁止に加え、契約書面を受け取った日から二十日間という長いクーリング・オフが認められます。注意したいのは、相手が事業者や、これから副業を始めようとする人であっても、規制が及び得るという点です。近年示された行政の解釈では、利益を得たい意思があるというだけでは特定商取引法の適用除外とはならず、取引への習熟の程度などを実質的に見て判断するとされています。「事業者向けだから特定商取引法は関係ない」という思い込みは危険です。なお、こうした副業スクールは、エステや語学教室などに限られる特定継続的役務提供には原則として当たりませんが、そのことは業務提供誘引販売取引などの規制を免れることを意味しません。

広告と勧誘トークにも規制が及ぶ

セミナーそのものや、その後の広告・勧誘の中での表現にも注意が必要です。「必ず儲かる」「これだけで月収数十万円」といった断定的な表現は、特定商取引法の誇大広告の禁止に触れるだけでなく、景品表示法の優良誤認・有利誤認にも当たり得ます。景品表示法は近年の改正でこうした表示への直罰の規定も設けられ、リスクは高まっています。さらに、セミナーや勧誘の場で、将来の不確実なことを「確実だ」と断定して告げたり、不安をあおって契約を迫ったりすれば、消費者契約法によって契約を取り消される可能性もあります。魅力的に見せる工夫と、法に触れる表現との境界を、正しく理解しておく必要があります。

だから、書面と契約と表示を一体で整える

以上を踏まえると、実務では次の備えが要になります。まず、自社の販売がどの取引類型に当たるかを正確に見極め、その類型に応じた法定の書面、すなわち概要書面や申込書面、契約書面、そして特定商取引法に基づく表記を、必要な記載事項を満たしたうえで整えることです。クーリング・オフや返品に関する条項も、類型に応じて正確に定めなければなりません。

これらの書面を電子データで交付する場合にも注意が必要です。単にPDFをメールで送るだけでは適法な電子交付とは認められず、消費者の事前の承諾など法定の手続を踏む必要があります。書面や電子交付の不備は、クーリング・オフの期間がいつまでも始まらない原因となり、行政処分や罰則の対象にもなり得ます。広告の表現、勧誘の進め方、そして書面と契約を、一体として設計することが欠かせません。

まとめ

オンラインセミナーからの商材販売は、その販売方法によって、通信販売にも、電話勧誘販売にも、業務提供誘引販売取引にもなり得ます。とりわけ、ウェブ会議ツールを用いたセミナーやオンライン面談は、それ自体が電話勧誘販売に当たり得るという点を、見落としてはなりません。通信販売のつもりでいても、実際にはクーリング・オフや書面交付義務が及ぶ電話勧誘販売に該当していた、ということが起こり得ます。自社の売り方を正しく見極めることが、無用なトラブルを避ける第一歩です。

当事務所は、契約書作成を専門とする行政書士事務所として、特定商取引法に対応した契約書面・概要書面や、特定商取引法に基づく表記の整備を支援しております。オンラインセミナーを活用した販売をご検討の際は、トラブルを未然に防ぐためにも、仕組みを固める前の段階で、ぜひ一度ご相談ください。

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