再生可能エネルギーの普及を背景に、系統用蓄電所(系統用蓄電池)の用地を探す事業者からの打診を受け、所有する土地を貸そうか検討される地主の方が増えています。長期にわたって安定した賃料収入が得られる一方で、蓄電所の賃貸借は、通常の土地の貸し借りとは異なる注意点を数多く含んでいます。契約条件の確認を怠れば、二十年前後の長期間にわたって、思わぬ負担やリスクを抱え込みかねません。本コラムでは、契約書作成を専門とする立場から、系統用蓄電所の土地賃貸借契約を結ぶ前に、地主として確認しておきたい条件を整理します。
まず「借地借家法が適用されるか」を見極める
最初に押さえておきたいのが、この賃貸借に借地借家法が適用されるかどうかです。借地借家法は、建物の所有を目的とする土地の賃借権を手厚く保護する法律で、適用されると、契約期間が満了しても正当な事由がなければ更新を拒めず、地主が土地を返してもらうのが容易ではなくなります。
蓄電所は、コンテナ型の蓄電池や受変電設備を土地に据え置く形態が一般的で、これが「建物」に当たるのかどうかは、設備の構造によって判断が分かれ得ます。基礎に定着した建築物と評価されれば借地借家法が適用される可能性があり、そうでなければ民法上の賃貸借として扱われることになります。どちらの枠組みで契約するのかは、将来土地を取り戻せるかどうかを左右する重大な分岐点です。民法上の賃貸借であれば、契約で定めた期間の満了によって終了させやすく、地主にとってはコントロールしやすい面があります。もっとも、設備が建物と評価される余地がある場合には、当初の想定に反して借地借家法が適用され、明渡しが困難になるおそれも否定できません。長期の事業を前提に、事業用定期借地権などの借地借家法上の制度を用いるのか、民法上の賃貸借とするのかを、設備の実態を踏まえて、契約の入り口で明確にしておく必要があります。
契約期間・更新・中途解約の条件
蓄電所の事業は、十五年から二十年程度の長期に及びます。したがって、契約期間をどう設定し、期間満了後に更新するのか終了するのか、更新する場合の条件はどうするのかを、あらかじめ定めておくことが欠かせません。
あわせて注意したいのが、中途解約の扱いです。事業者側の都合で早期に撤退した場合に、残りの期間の賃料や違約金をどう扱うのか。逆に、地主側から契約を終了させられる場合があるのか。長期契約だからこそ、途中で事情が変わったときの取り決めが重要になります。賃料についても、長期間にわたって固定するのか、一定期間ごとに見直す条項を設けるのか、物価や税負担の変動をどう反映するのかを、契約で明らかにしておきたいところです。
また、契約の始期と賃料の発生時期の関係も、確認しておきたい点です。蓄電所は、契約を結んでから、許認可の取得や造成、設備の設置工事を経て、実際の稼働に至るまでに相応の期間を要します。この準備期間中の土地の使用や賃料をどう扱うのか、工事に伴って土地の形状が変更される場合の取り決めはどうするのかを、あらかじめ定めておくことで、認識の食い違いを防げます。
原状回復と設備撤去の担保
長期契約で最も警戒すべきなのが、契約終了時に、土地が更地に戻らないリスクです。蓄電所には、大型の蓄電池、パワーコンディショナー、受変電設備、基礎やフェンスなど、撤去に相応の費用がかかる設備が設置されます。契約が終わった際に、これらを誰の負担で、いつまでに撤去し、土地を原状に回復するのかを、契約書で明確に定めておく必要があります。
とりわけ、事業者が撤退したり倒産したりして、設備が放置されるという事態への備えが重要です。撤去費用をまかなうための保証金や敷金を預かっておくこと、撤去義務を履行しない場合に地主が代わって撤去し、その費用を請求できるようにしておくこと、事業者の地位が第三者に移る場合にも撤去義務が引き継がれるようにしておくことなどが、実務的な備えとなります。リチウムイオン電池を含む設備は、廃棄にあたって適正な処理が求められるため、その責任の所在も明確にしておくべきです。
許認可・法令遵守の役割分担
系統用蓄電所の設置には、さまざまな許認可が関わります。土地が農地であれば農地転用の許可が必要ですし、一定の規模や立地によっては、都市計画法の開発許可が問題になることもあります。近年は、一定の蓄電池が都市計画法上の第一種特定工作物に当たり得るとの整理も示されており、開発許可の要否は慎重な確認を要します。消防法に基づく届出や、電気事業法上の手続も必要になります。
これらの許認可を、地主と事業者のどちらが取得し、その費用を誰が負担するのかを、契約で定めておくことが大切です。多くの場合は事業者側が担いますが、地主としても、無許可の転用など法令違反の状態が生じれば、土地所有者として責任を問われる場面があり得ます。事業者に法令を遵守させる条項や、違反があった場合に契約を解除できる定めを設けておくと安心です。
担保設定・転貸・第三者対抗への備え
蓄電所の事業では、金融機関からの融資を受けるために、事業者が土地の賃借権に抵当権などの担保を設定したいと求めてくることがあります。これに応じるのかどうか、応じる場合の条件をどうするのかは、地主にとって重要な判断です。また、事業者が賃借権を第三者に譲渡したり、土地を転貸したりすることを、地主の承諾なく認めるのかどうかも、確認しておくべき点です。長期の間に事業者の経営状況が変わり得ることを見据え、無断の譲渡・転貸を制限する条項を設けておくことが望まれます。
さらに、賃借権を登記するかどうかも論点になります。登記をすれば、土地が第三者に売却された場合でも賃借権を主張しやすくなる一方、地主にとっては土地の処分に制約が生じ得ます。双方の利害を踏まえた取り決めが必要です。
税務・近隣対応などの確認
このほか、土地を蓄電所用地として貸すことで、固定資産税の負担がどう変わるか、賃料収入に対する課税をどう見込むかといった税務面の確認も欠かせません。あわせて、騒音や景観、設備からの発熱など、近隣への影響をめぐるトラブルが生じた場合に、誰がどのように対応するのかも、契約で整理しておくと安心です。近隣との関係は、最終的に土地所有者である地主に向けられることもあるためです。
まとめ
系統用蓄電所の土地賃貸借は、長期にわたって安定収入をもたらす魅力がある一方、借地借家法の適用関係、契約期間と中途解約、原状回復と設備撤去、許認可の役割分担、担保や転貸の扱いなど、確認すべき条件が多層的に積み重なっています。事業者から提示された契約書をそのまま受け入れるのではなく、地主の立場から一つひとつの条件を精査することが、大切な土地を守ることにつながります。
当事務所は、契約書作成を専門とする行政書士事務所として、許認可と契約実務の双方の知見を活かし、系統用蓄電所をはじめとする土地賃貸借契約書の作成・点検を承っております。土地を貸すかどうかを決める前の段階で、提示された契約条件にご不安がある際は、ぜひ一度ご相談ください。

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