屋根や外壁の塗装、水回りの改修、太陽光や蓄電池の設置など、住宅リフォームの工事は、事業者が消費者の自宅を訪ねて勧誘し、その場で契約に至ることが少なくありません。こうした取引は、特定商取引法の「訪問販売」に当たることが多く、通常の工事請負とは異なる、特別なルールが課されます。これを知らずに自己流の契約書を使っていると、クーリング・オフがいつまでも終わらない、行政処分を受ける、といった思わぬ事態を招きかねません。本コラムでは、契約書作成を専門とする立場から、訪問販売としてのリフォーム工事契約書で注意したい項目を整理します。
リフォーム工事が「訪問販売」に当たる場合
まず押さえておきたいのが、どのような場合に訪問販売に該当するのか、という点です。特定商取引法の訪問販売は、事業者が営業所以外の場所で契約の申込みを受けたり契約を締結したりする取引を指します。消費者の自宅を訪問して勧誘し、その場で契約する典型的な場合はもちろん、これに準じる形態も対象になります。
リフォーム業界で特に注意したいのが、「無料で点検します」と言って訪問し、屋根や床下の不具合を指摘して工事契約へ誘導する、いわゆる点検商法です。また、電話やメールで「近くで工事をしているので」などと告げて自宅へ出向く約束を取り付け、訪問して契約を結ぶ場合も、訪問販売に含まれ得ます。自社の営業スタイルが訪問販売に当たるのかどうかを、まず正しく見極めることが出発点になります。なお、消費者の側から、その事業者に対して自宅での契約の勧誘を自ら要請して訪問を受けた場合など、一部に適用の除外はありますが、その範囲は限られており、点検商法のように事業者が入口をつくって訪問する場合は、これに当たりません。「相手が招き入れたのだから訪問販売ではない」と安易に考えるのは危険です。
法律で定められた書面を交付する
訪問販売に当たる場合、事業者には、法律で定められた書面を消費者へ交付する義務があります。これが、訪問販売の契約における最も基本的なルールです。
具体的には、契約の申込みを受けたときの申込書面と、契約を締結したときの契約書面を、法律で定められた事項を記載して交付しなければなりません。記載すべき事項には、商品やサービス、すなわち工事の内容、代金の額、支払の時期と方法、工事の時期、事業者の氏名や連絡先、そしてクーリング・オフに関する事項などが含まれます。これらの事項に漏れがあったり、記載が不十分であったりすると、書面を交付したことにならず、後で述べるクーリング・オフの期間が始まらないという、重大な結果につながります。自己流の工事請負契約書では、これらの事項が抜け落ちていることが少なくありません。なお、これらの書面を、紙に代えて電子メールなどで提供することも、一定の要件のもとで認められていますが、単にデータを送るだけでは足りず、消費者の事前の承諾など、法律の定める手続を踏む必要があります。
クーリング・オフを正しく記載する
訪問販売の契約書で、最も神経を使うべきなのが、クーリング・オフに関する記載です。訪問販売では、消費者は、法律で定められた書面を受け取った日から数えて八日間は、理由を問わず、書面または電子メールなどによって契約を解除できます。
契約書には、このクーリング・オフができる旨を、法律の定めに沿って、消費者に分かりやすい形で記載しなければなりません。記載の仕方には、文字の大きさなどについても決まりがあります。ここで重要なのは、期間を短くしたり、クーリング・オフを制限したりする特約を設けても、そうした定めは無効になるという点です。さらに、事業者が、クーリング・オフを妨げるために事実と異なることを告げたり、消費者を困惑させたりした場合には、八日間を過ぎても、あらためて書面を渡して説明するまでは、クーリング・オフができる状態が続きます。契約書の記載の不備や、不適切な勧誘が、期間の起算をいつまでも止めてしまうのです。
工事に着手するタイミングにも注意
リフォーム工事に特有の注意点として、クーリング・オフの期間中に工事を始めてしまうことのリスクがあります。八日間のうちに着工し、その後にクーリング・オフが行使されると、事業者は、原則として無償で元の状態に戻すことを求められ、すでに行った工事の費用を請求できないおそれがあります。
トラブルを避けるには、少なくともクーリング・オフの期間が過ぎるまでは工事に着手しない運用が安全です。消費者が早期の着工を強く望む場合もありますが、その際にも、クーリング・オフの権利を正しく説明し、その経緯を書面で確認しておくなど、慎重な対応が求められます。契約書と現場の運用を、一体で整えておく必要があるのです。
過量な契約・不実告知の禁止
訪問販売には、契約書の記載以外にも、守るべき重要なルールがあります。
一つは、不実告知や故意の事実の不告知の禁止です。工事の必要性や内容について、事実と異なることを告げたり、消費者に不利な事実をわざと伝えなかったりして契約させることは、禁じられています。「このままでは家が傷む」などと不安をあおる勧誘は、この点で問題になりやすいところです。これらによって消費者が誤認して契約した場合には、契約を取り消される可能性もあります。
もう一つが、過量販売の規制です。日常生活において通常必要とされる分量を著しく超える契約は、訪問販売では、契約の時から一年間、解除できるとされています。高齢者などに、必要のない大規模な工事を次々と契約させるような行為は、この規制の対象になり得ます。訪問販売の消費者は高齢の方も多いだけに、本当に必要な工事かどうかを丁寧に説明し、その記録を残しておく姿勢が、事業者自身を守ることにもつながります。
また、クーリング・オフの期間が過ぎた後に、消費者の都合で契約が解除された場合などに、事業者が請求できる損害賠償の額についても、特定商取引法に上限の定めがあります。契約書に高額な違約金を定めても、この上限を超える請求はできない点に、注意が必要です。
まとめ
リフォーム工事の契約は、その多くが特定商取引法の訪問販売に該当し、通常の工事請負とは異なる、厳格なルールのもとに置かれます。自社の勧誘が訪問販売に当たるのかを見極めたうえで、法定の記載事項を備えた申込書面・契約書面を整え、クーリング・オフを正しく記載すること、そして期間中の着工を避け、不実告知や過量契約を行わないことが、要になります。市販のひな形や自己流の契約書では、これらの要請を満たせないことが少なくありません。書面の不備は、クーリング・オフが終わらないという不安定な状態を招き、ひいては行政処分のリスクにもつながります。
当事務所は、契約書作成を専門とする行政書士事務所として、特定商取引法に適合したリフォーム工事の契約書面・申込書面の作成・点検を承っております。訪問販売を行う建設・リフォーム事業者の方は、トラブルを未然に防ぐためにも、ぜひ一度ご相談ください。

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