働き方の多様化が進み、フリーランスとして活動する人が増えています。自分の裁量で仕事を選べる自由がある一方で、会社員のように組織に守られているわけではなく、取引先とのトラブルは自分の身にそのまま降りかかります。とりわけ、仕事を受ける前に契約条件をよく確認しないまま進めてしまうと、「報酬が支払われない」「聞いていない作業を求められた」といった問題に直面しがちです。本コラムでは、契約書作成を専門とする立場から、フリーランスが仕事を受ける前に確認しておきたい契約条件を、10の視点で整理します。
はじめに――フリーランスを守る新しい法律
本題に入る前に、ぜひ知っておいていただきたいのが、令和六年十一月に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法、いわゆるフリーランス新法です。これは、組織に属さず個人で働く人が、発注者との関係で弱い立場に置かれがちなことを踏まえ、取引の適正化を図るために設けられた法律です。発注者には、業務委託をした場合に取引条件を書面などで明示する義務や、報酬を期日までに支払う義務などが課されています。これまで、こうした保護は、主に下請法によって資本金の大きい会社との取引が対象とされてきましたが、この法律は、発注者の規模を問わず、個人で業務委託を受ける人を幅広く守る点に特徴があります。以下で見ていく確認ポイントの多くは、この法律の後押しを受けているものでもあります。
確認すべき契約条件10選
第一に、業務の内容と範囲です。 何を、どこまで行えば仕事を完了したことになるのかを、明確にしておきます。範囲が曖昧だと、当初の話になかった作業を次々と求められ、いわゆる「やってもらって当然」の無償対応に悩まされることになります。追加の作業が生じた場合に、別途の報酬を請求できるのかどうかまで、はじめに確認しておくと安心です。
第二に、報酬の額と計算方法です。 報酬がいくらか、固定なのか成果や時間に応じるのか、消費税や源泉徴収の扱いはどうなるのかを確認します。口頭で「だいたいこのくらい」と言われたまま進めるのは禁物です。特に、交通費や材料費といった実費を、報酬に含むのか別途受け取れるのかは、見落とされがちな点です。
第三に、報酬の支払期日です。 フリーランス新法では、発注者は、成果物を受け取った日などから数えて六十日以内のできる限り早い時期に、報酬の支払期日を定め、支払わなければならないとされています。いつ支払われるのかを、受注の前に必ず確認しておきましょう。報酬の遅れは、収入をその仕事に頼るフリーランスにとって、生活に直結する深刻な問題になりかねません。
第四に、取引条件の明示です。 フリーランス新法により、発注者は、業務の内容、報酬の額、支払期日などの取引条件を、書面や電子メールなどの方法で明示する義務を負っています。条件が示されないまま仕事が始まりそうなときは、明示を求めることが、自分を守る第一歩になります。
第五に、成果物の検収と修正の扱いです。 納品したものを、いつまでに、どのような基準で確認してもらえるのか、修正はどの範囲まで無償で対応するのかを定めておきます。際限のない修正要求を防ぐうえで、重要な取り決めです。確認に時間がかかりすぎると、報酬の支払が先延ばしになることもあるため、検収の期限を定めておく意味は小さくありません。
第六に、契約の期間と終了の条件です。 継続的な仕事であれば、契約がいつまで続くのか、更新や中途解約の条件はどうなっているのかを確認します。突然の打ち切りで収入が途絶えることのないよう、終了の際のルールを見ておくことが大切です。なお、フリーランス新法では、一定期間以上の継続的な業務委託を中途で解除する場合などに、原則として事前の予告を行うことが発注者に求められています。
第七に、知的財産権の取扱いです。 制作したものの著作権などが、発注者に移るのか、自分に残るのかを確認します。権利が移る場合でも、実績として公表できるのか、同種の仕事を他で受けられるのかといった点は、今後の活動に関わるため、よく確かめておきたいところです。
第八に、秘密保持と競業の制限です。 業務で知った情報の取扱いや、同業他社の仕事を受けることを制限する条項の有無を確認します。競業を広く、長く制限する内容は、フリーランスにとって活動の幅を狭めるため、その範囲が妥当かを見極める必要があります。
第九に、損害賠償と責任の範囲です。 納期に遅れた、成果物に不具合があったといった場合に、どこまでの責任を負うのかを確認します。賠償の額に上限がなかったり、わずかなミスで過大な責任を負わされたりする内容になっていないか、注意が必要です。
第十に、再委託やハラスメントへの対応です。 仕事の一部を他の人に任せること、いわゆる再委託が認められるかを確認しておくと、繁忙期などに柔軟に対応できます。あわせて、フリーランス新法では、発注者に、ハラスメント対策として相談に応じる体制の整備が求められています。安心して働ける環境かどうかも、取引先を見極める一つの視点になります。これらは、単なる気配りではなく、法律上求められている取り組みでもあります。
禁止されている発注者の行為も知っておく
確認ポイントとあわせて知っておきたいのが、フリーランス新法が、一定期間以上の継続的な業務委託について、発注者による不当な行為を禁じているという点です。たとえば、フリーランスに責任がないのに受領を拒むことや、報酬を一方的に減額すること、著しく低い報酬を不当に定めること、正当な理由なく自社の商品を買わせることなどが、禁止行為として定められています。
こうした行為は、契約書に書かれていても許されるものではありません。もし取引の中で不当な扱いを受けた場合には、行政の窓口に相談するという道もあります。自分を守る法律があることを知っておくだけでも、交渉の際の心強い支えになります。条件に納得できないときに、泣き寝入りをするしかないわけではない、ということです。
まとめ
フリーランスが仕事を受ける前に確認すべき契約条件は、業務の範囲や報酬、支払期日といった基本から、成果物の検収、知的財産権、秘密保持や競業、損害賠償まで、多岐にわたります。これらを曖昧にしたまま引き受けてしまうと、後から不利な立場に立たされかねません。フリーランス新法という後ろ盾ができた今だからこそ、示された条件をきちんと確認し、納得したうえで仕事を受ける姿勢が大切です。
当事務所は、契約書作成を専門とする行政書士事務所として、フリーランスの方が受け取った契約書の点検や、ご自身が用いる業務委託契約書の作成を承っております。提示された条件に不安があるとき、条件を書面で整えたいときは、お引き受けの前に、ぜひ一度ご相談ください。

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