人材紹介市場の拡大とともに、有料職業紹介事業へ新規参入する企業が増えています。もっとも、この事業は職業安定法に基づく厚生労働大臣の許可制であり、手数料の取り方や求職者への働きかけに細かな規制が課されています。求人企業と取り交わす契約書は、こうした法規制と、早期離職や手数料回避といった実務リスクの双方を踏まえて設計しなければなりません。近年は規制も強化されており、令和7年1月からは、これまで指針にとどまっていた一部のルールが許可条件へと格上げされました。本コラムでは、契約書作成を専門とする立場から、有料職業紹介事業の契約書で押さえるべきポイントを整理します。

1.まず「誰と誰の、何の契約か」を押さえる

有料職業紹介事業の中心となる契約は、紹介手数料を支払う求人企業(クライアント)との間で結ぶ職業紹介基本契約です。職業紹介は、求人者と求職者の間の雇用関係の成立をあっせんする役務であり、紹介が成立した後の雇用契約は、あくまで求人企業と求職者が直接締結します。紹介事業者はその雇用契約の当事者にはなりません。したがって契約書も、あっせんという役務の提供と、その対価である手数料の取り決めを軸に構成することになります。

なお、手数料は原則として求人企業から受け取るものであり、求職者から手数料を徴収することは職業安定法上、原則として禁止されています。芸能家やモデル、経営管理者、科学技術者、熟練技能者など一部の職種に限って例外が認められるにすぎません。この点を誤ると許可の根幹に関わるため、契約の設計段階から明確にしておく必要があります。

2.手数料条項――届出制手数料を軸に正確に

有料職業紹介の手数料には、支払われた賃金額の一定割合を上限とする「上限制手数料」と、あらかじめ手数料表を厚生労働大臣に届け出て徴収する「届出制手数料」の二種類があります。上限制は、原則として支払われた賃金額の11パーセント(免税事業者は10.3パーセント)を上限とし、雇用期間等に応じた例外的な計算方法も定められていますが、実務では、より高い料率を設定できる届出制を採用するのが一般的です。契約書に定める手数料は、この届け出た手数料表の範囲と矛盾しないものでなければなりません。

そのうえで、算定の基礎となる金額――多くは採用された求職者の想定年収――に何を含めるか、すなわち基本給のほか賞与や諸手当を算入するのかを、契約で明確に定めておくことが、後の紛争を防ぐ鍵になります。あわせて、手数料が発生する時点を採用の決定時とするのか入社時とするのか、そして請求から支払までの期限も明記します。なお、有料職業紹介事業者は、届け出た手数料や受付手数料などを除き、いかなる名義でも報酬を受け取ることができません。契約書に安易に別途費用の定めを置くと、違法と評価されかねない点にも注意が必要です。

3.返戻金条項――早期離職に備える

紹介した人材が入社後まもなく退職した場合に、受け取った手数料の一部を求人企業へ返金する「返戻金」の定めは、法令上の義務ではありません。しかし、求人企業の納得を得て継続的な取引につなげるうえで、実務上は設けられることの多い重要な条項です。一般的には、入社日から一定期間内の退職について、期間の長短に応じた返戻率を段階的に設定します。

設計にあたっては、返戻の対象となる退職の範囲を丁寧に定めることが重要です。求職者本人の自己都合による早期退職は対象とする一方、求人企業側の都合による解雇や、実際の労働条件が求人内容と大きく異なっていた場合などを対象外とするなど、責任の所在に応じた線引きが求められます。なお、返戻金制度を設ける場合には、契約書の定めと、届け出た手数料表・返戻金制度に関する事項との整合にも注意が必要です。

4.直接採用の防止と、その限界

紹介した候補者を、求人企業が事業者を通さずに直接採用し、手数料の支払を免れる――いわゆる手数料回避への備えも重要です。契約書では、紹介した求職者について、一定期間内に求人企業が直接またはグループ会社等を通じて採用した場合にも手数料が発生する旨を定めておくのが通常です。

ただし、この種の条項には限界があります。制約できるのは、あくまで契約の相手方である求人企業の行為であって、求職者本人の再就職や転職の自由を縛ることはできません。求職者本人の転職・就職の自由を過度に制限するような取り決めは、その有効性に問題が生じるおそれがあります。手数料回避の防止は、あくまで求人企業との間の対価の取り決めとして構成することが肝心です。

加えて、令和7年4月1日からは、求人の受付時に、違約金に関する定め(違約金の額や発生条件などを含む契約の内容)を、あらかじめ求人企業に誤解が生じないよう明示することが求められています。直接採用の場合などに手数料や違約金を請求する条項を設けるときは、契約書の記載とこの事前明示の義務との整合にも留意が必要です。

5.お祝い金・転職勧奨の禁止と、令和7年からの許可条件化

近年とりわけ注意を要するのが、求職者への「お祝い金」と「転職勧奨」に関する規制です。令和3年4月から、職業安定法に基づく指針により、就職お祝い金などの名目で求職者に金銭等を提供し、求職の申込みを勧誘する行為が禁止されています。さらに、自らの紹介により無期雇用で就職した人に対しては、就職した日から2年間、転職の勧奨を行ってはならないという転職勧奨の禁止も定められています。

重要なのは、これらのルールが令和7年1月から、新規の許可や許可の更新の際に、順次「許可条件」へと位置づけ直された点です。単なる指針違反にとどまらず、許可条件への違反として、行政指導や許可の取消しにつながり得ることを意味します。契約書そのものに書き込む性質の事項ではありませんが、法令遵守条項の実質を支えるものとして、社内の運用ルールや、紹介した人材の情報の取扱いに確実に反映させておく必要があります。

6.明示義務・個人情報などの遵守と一般条項

このほか、契約書と事業運営を通じて押さえるべき遵守事項があります。職業安定法は、求職者に対して従事すべき業務や労働条件を明示する義務(第5条の3)や、求人情報等を正確かつ最新の内容に保つ的確表示の義務(第5条の4)を定めています。2024年4月からは、就業場所や業務の変更の範囲など、明示すべき事項も拡充されました。契約書には、求人企業から提供される労働条件や求人情報の正確性・最新性を確保するための役割分担を明確にし、その内容について求人企業が責任を負う旨を定めておくと、事業者側のリスクを抑えられます。

加えて、求職者の個人情報の適正な取扱い(第5条の5)と守秘義務、反社会的勢力の排除、契約期間と中途解除、損害賠償の範囲、準拠法と合意管轄といった一般条項も、自社の取引実態に即して整えておきます。なお、令和7年4月1日からは、職種別の平均手数料率の実績を国の人材サービス総合サイトで公開することも義務づけられており、こうした最新の運用も踏まえて契約と業務を設計する必要があります。

7.まとめ

有料職業紹介事業の契約書は、手数料と返戻金という金銭面の取り決めを中核としつつ、求職者から手数料を取れないという原則、求職者の転職の自由という限界、そしてお祝い金・転職勧奨の禁止といった近年強化された規制を、正確に踏まえて作り込む必要があります。市販のひな形をそのまま流用すると、届け出た手数料表との不整合や、法令に反する条項を抱え込むおそれがあります。

当事務所は、契約書作成を専門とする行政書士事務所として、有料職業紹介事業の許可制度と最新の法改正を踏まえた職業紹介基本契約書の作成・点検を支援しております。これから許可を取得される方はもちろん、既存の契約書を現行法に合わせて見直したい方も、ぜひお気軽にご相談ください。

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