FIT(固定価格買取制度)の開始から十年以上が経過し、すでに稼働している太陽光発電所を売買する、いわゆるセカンダリー市場の取引が広がっています。長期にわたり安定した売電収入が見込める資産として、投資対象としての魅力は大きいものです。しかし、その売買契約を通常の不動産取引と同じ感覚で進めると、思わぬ落とし穴にはまりかねません。発電所の売買は、設備や土地の移転にとどまらず、FIT・FIP認定や電力会社との契約、さまざまな許認可までを一体で引き継ぐ複合的な取引だからです。本コラムでは、契約書作成を専門とする立場から、太陽光発電所の売買契約で押さえておくべき注意点を整理します。

発電所の売買は「不動産+事業」の複合取引

まず認識しておきたいのは、売買の対象が一つではないということです。太陽光パネルやパワーコンディショナーといった発電設備、その敷地となる土地の権利、FIT・FIP認定(事業計画認定)に基づく地位、電力会社との特定契約や接続契約、保守運用(O&M)契約など、事業を成り立たせる要素は複数の層に分かれています。これらが一つでも欠けたり、うまく引き継げなかったりすると、買主が期待した収益を得られない事態になりかねません。

したがって契約書では、何を売買の対象とするのかを、要素ごとに漏れなく特定することが出発点になります。設備の範囲、土地の権利の内容、承継する契約の一覧などを明確にし、引き継がれるものと引き継がれないものの線引きを、あいまいなまま残さないことが肝心です。

取引の形(ストラクチャー)で承継の方法が変わる

太陽光発電所の売買には、いくつかの形があります。設備や契約を個別に移転する資産譲渡、事業を一体として引き継ぐ事業譲渡、そして発電所を保有する会社そのものの株式を取得する株式譲渡です。どの形をとるかによって、必要な手続きや残るリスクが大きく変わります。

たとえば株式譲渡では、会社をまるごと引き継ぐため、認定や各種契約の名義変更は不要となる一方、その会社が抱える簿外債務や過去の紛争まで承継してしまうおそれがあります。反対に資産譲渡では、承継する権利や契約を選べる利点がある一方、契約ごとに相手方の同意や名義変更の手続きが必要になります。契約書の作り込みは、選択したストラクチャーに合わせて設計しなければなりません。

FIT・FIP認定の承継がカギを握る

とりわけ重要なのが、FIT・FIP認定の扱いです。認定に基づく地位は、売買契約を結んだだけでは自動的に買主へ移りません。原則として、旧事業者と新事業者が共同で変更認定申請を行い、経済産業大臣の認定を受けてはじめて、買主が認定事業者として売電を続けられます。

そのため契約書では、変更認定が得られることを代金の支払いや引渡しの前提条件(停止条件)として定め、認定が下りるまでの収入の帰属やリスクの分担を明確にしておくことが欠かせません。認定が承継できなければ、事業の前提そのものが崩れてしまうからです。あわせて、認定そのものの有効性の確認も重要です。古い案件では、事業計画の未提出や運転開始期限の超過などによって、認定が失効している、あるいは失効のおそれがある場合もあります。さらに、変更の内容によっては、当初の調達価格(買取価格)が維持されない場合や、認定が失効するおそれもあります。設備の大幅な変更などを伴うときは、価格や認定への影響を事前に確認しておく必要があります。

変更認定に伴う「説明会」に注意

見落とされがちですが、変更認定の手続きには、周辺地域の住民に対する説明会の要件が関わってきます。2024年4月に施行された改正再エネ特措法により、一定の要件に該当する場合には、変更認定申請の前に、周辺地域の住民に対する説明会等(説明会の開催、又は一定の事前周知措置)を実施することが、認定の要件とされました。

ここで注意したいのは、これまで変更認定の対象とされていなかった株式や持分の譲渡による事業者の変更も、対象に含まれることになった点です。つまり、株式譲渡の形をとる場合であっても、説明会等が必要となることがあります。また、認定事業者を変更する場合の説明会には、原則として旧事業者と新事業者の双方が出席することが求められ、しかも申請の一定期間前(原則として3か月前)までに実施しておく必要があります。

これは、契約実務に直接影響します。売買の合意から実際の引渡し・承継までに、説明会の準備と開催のための相応の期間を見込まなければならず、スケジュールが後ろ倒しになりやすいのです。契約書には、説明会等の実施主体、費用の負担、双方の協力義務、そして全体の日程を織り込んでおくことが実務上の要点となります。なお、この制度は運用の見直しや要件緩和の動きもあるため、取引の時点で最新の取扱いを確認しておくことをおすすめします。

土地の権利関係を確認する

発電設備が長期間据え置かれる以上、その敷地となる土地の権利は、事業の生命線です。土地を所有権ごと取得するのか、賃借権や地上権を引き継ぐのかによって、確認すべき点は異なります。とくに土地を借りている場合、賃借権の譲渡には原則として地主の承諾が必要であり、無断で譲渡すると契約を解除されるおそれがあります。承諾の取得を前提条件に組み込むことが欠かせません。

また、土地の権利が残っている期間が、FITの買取期間(十キロワット以上の設備で原則二十年)を含む事業期間をきちんとカバーしているかも確認すべき点です。加えて、境界や接道の状況、農地法・森林法・盛土規制法・農業振興地域に関する規制など、造成や土地利用に関わる許認可の遵守状況も、引継ぎ前に精査しておく必要があります。

設備の状態・発電実績と法令遵守

買主が最も気にするのは、実際にどれだけ発電し、いくらの収入を生むかという点でしょう。過去の発電実績や設備の劣化状況、パワーコンディショナーの更新履歴などは、契約前に十分に確認しておくべきです。特定の地域や電源では、需給の状況に応じて出力の制御(抑制)が行われ、想定より売電量が下がることもあるため、その影響も見込んでおく必要があります。

さらに、電気事業法上の技術基準(柵や塀、標識の設置、電気主任技術者の選任など)の充足状況や、廃棄等費用の積立ての承継も見落とせません。太陽光発電設備の廃棄等費用については、一定規模以上のFIT認定事業を対象に積立てが求められており、その積立金の扱いを売買にあたって明確にしておく必要があります。

表明保証・契約不適合・前提条件で手当てする

これらのリスクは、契約書の条項によって計画的に手当てすることができます。中心となるのが、売主による表明保証です。発電実績や認定の有効性、法令の遵守、係争や未払いの不存在などを売主に保証させ、その内容が事実と異なっていた場合の補償の範囲や期間、上限をあらかじめ定めておきます。あわせて、隠れた不具合が判明した場合に備えた契約不適合責任の内容も、取引の実態に合わせて調整します。

また、変更認定の取得、説明会等の完了、地主その他の第三者の承諾の取得といった事項を、引渡しの前提条件として明確に定めておくことも重要です。引渡しの前後で発電所に生じた損害を誰が負担するのか、売電収入をどの時点で区切って精算するのかといった点も、契約書で丁寧に決めておくことで、後の行き違いを防げます。

まとめ

太陽光発電所の売買は、設備と土地に加えて、FIT・FIP認定や各種契約、許認可までを一体で引き継ぐ複合的な取引です。とりわけ、認定の変更認定と、それに伴う説明会の要件は、取引のスケジュールと契約条件の双方に大きな影響を及ぼします。市販のひな形をそのまま用いるだけでは、これらのリスクを取りこぼしかねません。

当事務所は、契約書作成を専門とする行政書士事務所として、許認可と契約実務の双方の知見を活かし、太陽光発電所の売買契約書の作成・点検を承っております。取引をご検討の際は、契約条件を固める前の段階で、ぜひ一度ご相談ください。

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