空いている駐車場や店舗の軒先、商業施設の一角、イベント用地などに、キッチンカー(移動販売車)を呼び込んで出店してもらう取り組みが広がっています。土地の所有者にとっては、遊休地を手軽に活用して収入を得られる魅力があり、キッチンカー側にとっても、集客の見込める場所を確保できる利点があります。もっとも、飲食物を扱う営業を自分の土地で行わせる以上、通常の土地の貸し借りとは違った注意が必要です。契約書の作り込みを誤れば、近隣とのトラブルや事故の責任を、土地の所有者が思わぬ形で負いかねません。本コラムでは、契約書作成を専門とする立場から、キッチンカーに土地を貸す場合に、契約書へ記載しておきたい事項を整理します。
まず契約の性質を押さえる
はじめに確認しておきたいのが、この契約が、土地を一定期間貸す賃貸借なのか、特定の日時だけ場所の利用を認める一時的な利用許諾なのか、という点です。毎日継続して同じ区画に出店してもらうのであれば、土地の賃貸借に近くなり、週末や特定のイベントのときだけ利用を認めるのであれば、短期の利用許諾という色合いが濃くなります。
ここで押さえておきたいのは、キッチンカーのために土地を貸す場合、借地借家法は適用されないという点です。借地借家法は、建物の所有を目的とする土地の賃借権を手厚く保護する法律です。キッチンカーは車両であって建物ではなく、その駐車のために土地を使わせるだけであれば、同法の適用はなく、民法上の契約として扱われます。これにより、契約で定めた期間や条件に沿って、比較的柔軟に終了させることができます。もっとも、だからこそ、期間や更新、終了の条件を契約書で明確に定めておく意味は大きいといえます。どちらの性質の契約なのかによって、適した条項の立て方も変わってくるため、まずは出店の形態を見据えて、契約の枠組みを選ぶことが出発点になります。
基本的な記載事項
まず、どの契約にも共通する基本事項を押さえます。貸す土地の場所と範囲を、区画を特定できる形で記載し、利用できる日や時間帯を定めます。そのうえで、使用料の額と、その計算方法や支払の時期・方法を明記します。使用料は、月額で定める場合のほか、出店一回ごとの定額とする場合や、売上の一定割合とする場合もあります。売上に応じる方式をとるのであれば、売上の報告の仕方や、確認の方法についても取り決めておかないと、後に金額をめぐる食い違いが生じやすくなります。どの方式をとるのかを、計算の根拠まで含めてはっきりさせておきます。あわせて、契約の期間と、更新や中途解約の条件、使用料が支払われない場合などに契約を解除できることも定めておきます。
使用目的と営業に関する取り決め
キッチンカーへの土地貸しで特に重要なのが、使用目的を明確に限定することです。キッチンカーによる飲食物の販売という目的に用途を限り、それ以外の目的で土地を使わせないこと、第三者に無断で又貸ししないことを定めておきます。
そのうえで、営業に必要な許認可を、出店者の責任で取得・維持してもらうことを明記します。キッチンカーで飲食物を調理・販売するには、食品衛生法に基づく営業許可が必要であり、提供できる食品の範囲は、取得した許可の内容や、車両に備わる設備によって定まります。これらを満たすのは出店者自身の義務であり、土地の所有者がその中身まで保証するものではないことを、契約で明確にしておくと、責任の切り分けがはっきりします。営業許可は保健所ごとに取り扱いが異なる部分もあるため、出店者が、出店地を管轄する保健所の求める基準を満たしていることを、確認しておきたいところです。無許可営業など法令違反が判明した場合に、契約を解除できる定めを置いておくことも有効です。
設備・衛生・近隣への配慮
飲食の営業を伴うだけに、現場の運用に関する取り決めも欠かせません。電気や水道を土地側の設備から使わせるのか、その場合の費用をどう負担するのかを定めます。調理に伴って出る排水や油、生ごみなどの処理を、出店者の責任で適切に行い、その場に残さないことも明記しておきたい事項です。これらを土地側で安易に受け入れてしまうと、処理の手間や費用、近隣への影響が、思わぬ形で土地の所有者に跳ね返ってくることがあります。
また、キッチンカーの多くは、調理のためにカセットコンロやLPガス、発電機などを用います。火気の取り扱いや消火器の備え付けといった安全管理を出店者の責任で行うこと、設備の使用により土地や周囲に損害を与えた場合の責任を明らかにしておきます。火災のリスクは、土地の所有者にとっても他人事ではないだけに、安全対策を出店者任せにせず、契約の中で明確に義務づけておくことが大切です。あわせて、煙やにおい、呼び込みの音などによって近隣に迷惑をかけないよう配慮を求め、近隣から苦情が生じた場合の対応について定めておくと、土地の所有者が板挟みになる事態を避けられます。
事故・損害賠償とごみ・原状回復
来客が集まる場所だけに、万一の事故への備えも重要です。提供した飲食物による食中毒や、営業中の事故によって第三者に損害が生じた場合に、その責任は出店者が負い、土地の所有者は責任を負わないことを、契約で明確にしておきます。あわせて、出店者に対して、営業にかかる賠償責任保険への加入を求めておくと、現実的な備えになります。保険の加入を口頭で確認するだけでなく、契約の条件として定め、加入を示す書類の提示を求めておくと、より確実です。
さらに、利用の終了時には、ごみを残さず撤去し、土地を元の状態に戻して明け渡すことを定めます。油汚れや設備の設置跡、地面の損傷などが残った場合の原状回復の責任についても、明らかにしておきましょう。これらは、利用が終わってから気づくことも多く、あらかじめ責任の所在を決めておくことで、後味の悪いやり取りを避けられます。使用料や費用の支払いを担保するために、保証金を預かっておくことも、実務上の備えとなります。
まとめ
キッチンカーに土地を貸す契約は、遊休地の手軽な活用策である一方、飲食の営業を自分の土地で行わせることに伴う、独特のリスクを含んでいます。契約の性質と借地借家法が適用されないことを踏まえたうえで、使用目的の限定、営業許可など許認可の取得義務、電気・水・排水やごみの扱い、火気の安全管理、近隣への配慮、そして事故時の責任と原状回復までを、契約書で一つひとつ押さえておくことが、土地の所有者を守ることにつながります。市販のひな形をそのまま使うだけでは、こうした飲食特有の論点を取りこぼしかねません。
当事務所は、契約書作成を専門とする行政書士事務所として、キッチンカーをはじめとする土地の利用・賃貸借に関する契約書の作成・点検を承っております。大切な土地を安心して活用いただくために、出店者を迎える前の段階で、ぜひ一度ご相談ください。

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